気候変動とチョコレート




チョコレートの原料はカカオの木から採取されるカカオ豆である。この木の生育には気温差が小さくて多湿、多雨、窒素に富んだ土壌、さらに風にさらされない熱帯雨林気候が不可欠である。カカオの主要な原産地として挙げられるのはコートジボワール、ガーナ、インドネシアをはじめにアフリカとアジア、中南米の国々など、赤道をはさみ北緯20度から南緯20度までのかなり限られた「カカオベルト」に沿っている。

世界で栽培されるカカオノキ(Theobroma cacao)のおよそ70%は、シエラレオネからカメルーン南部にわたる西アフリカのカカオベルト産である。コートジボワールとガーナの2カ国だけで、世界中で消費されるチョコレートの半分以上を生産し、それぞれGDPの20%と9%を占めている。200万の家族経営の小規模自営農家が生産を担っている。長いこと収益性と持続可能性を誇ってきた業界であるが、生産量の減少に脅かされている。これはカカオノキと土壌の管理不備、病害虫、木の老化、整備への過少投資、さらにサプライチェーン全般にわたるトレーニングと支援の欠落に起因している。

これらの問題に追い打ちをかけるのが気候変動である。西アフリカではすでに干ばつのリスクが高まり、小規模農家は降水パターンの変化や、気温の上昇、病害虫の発生パターンの変化による生産量の減少と品質の低下に見舞われている。気候変動により、カカオ栽培に適した気候条件に恵まれた土地が長期的に減少する恐れがある(下図1)。

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図1:現在および2050年代の予想気候条件における西アフリカ・カカオベルトの

相対的気候適合性(%)、および24の気候変数に基づく適合性の変化。

赤線部分はカカオの栽培地域を示している。

カカオの栽培では季節的な干ばつのストレスは最大の脅威であるが、乾季の最高気温の問題は水の利用可能性と同等、もしくはより深刻と課題となるだろう。2050年までにカカオベルトの大部分では乾季の最高気温が大幅に上昇すると予測され、ギニア、シエラレオネ、リベリア、さらにトーゴとナイジェリアの一部では現在アフリカのサバンナが経験している乾季の最高気温と同じレベルになる恐れがある。これはカカオの木の生育を脅かす気温の上限と重なる1。さらに気温の上昇に伴い、カカオの栽培に最適な標高が山岳地帯に押し上げられる可能性がある。

カカオの栽培地域が変わることで、世界的なカカオの生産量に影響を及ぼすことになる。その結果、国家経済そして生産農家の生活が左右されてしまうのだ。地域の気候適合性が低下するために、カカオの栽培地域が集中し、脆弱性が高まり、世界規模で業界が影響を被るだろう。

気候変動対応型の取組み

予測される気候が与える影響は、西アフリカのカカオベルトにある国によって異なる。つまり気候変動に対する強靭性強化に向けた取組みは、各地域の実情と気候の潜在的脅威に合わせる必要がある。カカオ豆の強靭性を向上させるには、熱・干ばつ・疫病に耐性のある品種や緑陰樹を選定しなければならない。

農園レベルでは緑陰樹を管理・増植することで、カカオの木を風と浸食から守り、熱ストレスと蒸発散量を低減し、落ち葉で養分を補給することができる。特に厳しい暑さと乾燥に見舞われるカカオベルトの北部において、さらに例年より苛酷な熱波が沿岸部を襲った場合にも有効である。また環境ニーズの異なる品種や木を組み込んで農業システムを多様化し、農家の収入源を多角化することで、市場の不安定性や環境リスクがもたらすダメージを軽減することができる。

カカオの生産は、今後数十年で栽培に適した気候条件が残る地域に移ることが予測される。その結果、リベリアとカメルーン、場合によってはコンゴ盆地にも森林伐採が広がる可能性がある。現在、適した気候にあるカカオ農園の集約化を図り、農林地の保全政策を通してすでに森林破壊が見られる土地にカカオ栽培を展開していく国家および地域レベルでの政策が急がれる。

世界カカオ財団(World Cocoa Foundation (WCF))は、カカオ・チョコレート業界の会員と協働し、持続可能な生活と安定したカカオの供給を目指している。カカオ農家が気候変動に適応し、森林破壊を食い止めるよう支援している。

例えば2016年にWCFは、米国国際開発庁(USAID)と西アフリカ(コートジボワール、ガーナ、リベリア)および中南米(ドミニカ共和国、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア)で事業を展開するWCF会員企業9社の支援を受けて、「気候変動対応型カカオ生産に向けたFeed the Future パートナーシップ」を立ち上げた。国家および地域で気候変動対応型のカカオ生産に向けた戦略を策定し、カカオ農家の強靭性を強化することに焦点を当て、政府機関やNGO、業界の専門家の参画を図り、民間セクターの投資を呼び込むことを目指している。さらに技術者と協働し、西アフリカおよび中米で気候変動インパクトモデルの向上を図っている。

マース(Mars, Incorporated)を含む企業は、気候変動が世界規模に展開するサプライチェーンに与える影響を検証し、持続可能な調達は温室効果ガス排出の削減にとどまらず、気候変動への強靭性を高めうることを理解している。マースは持続可能な調達戦略の一環として、水ストレスに直面しているパキスタン、インド、スペインでの米のサプライチェーンにある農家向けに節水プログラムを展開している。パキスタンでのプログラムでは、すでに水使用量が30%減少し、農家の収入が75%増加する成果を上げている。

1. Schroth G., P. Läderach, A.I. Martinez-Valle, C. Bunn, L. Jassogne (2016) Vulnerability to climate change of cocoa in West Africa: patterns and opportunities and limits to adaptation, Science of the Total Environment556, 231–241.

執筆:リタ・ユー