インクルーシブ・ビジネスを活性化して貧困の削減と女性の経済的エンパワメントを図る




CSRアジアはインクルーシブ(包摂的な)・ビジネスについてリサーチを続けている。この中で、大企業のバリューチェーンに貧困層を取り込むビジネスを展開するだけで、増収と貧困の削減、さらに持続可能な開発目標(SDGs)の達成を後押しできることを繰り返し示している。

リサーチ結果から、農産業の成長により、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国であるミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、マレーシア、インドネシアとフィリピンが、「ソフトコモディティ(コーヒ・木材・野菜・魚など)」の生産と貿易に支えられて世界をリードする足がかりを築いたことが分かる。これは海外からの投資と生産性・加工技術の飛躍的な向上により実現したものである。

貧困層から抜け出す方法は農業や雇用、非農業分野での加工・取引、または移住など様々であるが、いずれも農業に大きく依存している。ASEAN域内では企業からの投資が伸び続け、農業セクター全体を塗り替える可能性がある。民間セクターは生産と加工を最適化すると同時に、同地域の社会経済発展を推し進める機動力となるからだ。

2ヘクタール未満の土地を所有・耕作する「小規模農家」は、農業バリューチェーンの川上で大きな割合を占め、発展途上地域の食料生産の8割を担っている。小規模農家の生産性と持続可能な農村開発は、経済成長と食料安全保障さらに貧困の削減と本質的に結びついている。それにもかかわらず小規模農家は環境が厳しい辺境の地に居住して目を向けられることもなく、社会的に疎外され公民権すら持たない人々もいるのが実情だ。

CSRアジアの最新レポートでは、小規模農家がいかに企業の収益性とセクターの持続可能性の向上に中心的な役割を果たしうるかについて検証している。トップ企業は包括的なインクルーシブ・ビジネス・プログラムを構築し、貧困の解決を図りつつ、環境保全や社会発展、さらに小規模農業で女性が果たす重要な役割に働きかけて利益を上げることを目指している。

農業セクターがこのような様々なチャンスを活かすには、責任あるインクルーシブ・ビジネスを単に「善い行い」と捉えるのではなく、その価値を理解する必要がある。企業がインクルーシブ・ビジネス・アプローチに切り替えるには、農家の中でも特に小規模農家に対する視点と関わり合い方を変えなければならないのだ。より包摂的なアプローチによりこれまで目を向けられなかった小規模農家を取り組むことで、原材料の確保と生産性を向上させる製品・サービス開発、さらにイノベーションの促進につなげる可能性が広がる。

企業はトレーニングと能力開発、ロジ的なサービスや農業資材・設備の投入など様々な方法で小規模農家を支援することができる。企業側の利点として、供給の安定性を確保し、責任ある事業活動や製品を社会・環境的に意識の高いマーケット向けに展開できる点が挙げられる。こうした価値あるマーケットが台頭しているのだ。

優良事例として10のケーススタディを検証し、民間セクターは変化を生み出す力があること、そしてより包摂的なバリューチェーンによる恩恵を受けるのは大企業に限らないことを示している。事業規模の大小にかかわらず、責任ある包摂的なビジネス・アプローチは持続可能な開発の推進力となるのだ。
CSRアジアのレポートでは小規模農業で女性が果たす重要な役割を指摘している。しかしながら、女性には柔軟性を欠く労働時間やジェンダー差別の重圧がのしかかり、さらには子育てや家事まで担うという「見えない」労働が強いられている。アジアの農業セクターでは女性が労働人口の半数を占めるが、農業関連ビジネスでは女性は蚊帳の外に置かれ、過小評価されている実態がリサーチ結果は示している。

企業は女性の参画を働きかけることで、農村部の経済開発の推進やアジア地域でのジェンダーギャップの解消、さらに生産力を平均20~30%向上させることができる。女性の経済的エンパワメントを妨げる障壁を乗り越えるには、主要な農業バリューチェーンに女性を取り込むことが有効である。アジアにある企業の多くは「ジェンダーブラインド(ジェンダーに無頓着)」な事業を展開し、女性にとってプラスに作用する取組みがあったとしても多くの場合は偶然の産物なのである。

企業はインクルーシブなビジネス戦略を上手く活用することで、事業を展開するコミュニティの環境・社会・経済状況の改善を刺激し、SDGsの達成に大きく貢献することができると本レポートは指摘している。農業関連ビジネスはこのレポートを参考文献として農業サプライチェーン全般で活用し、民間セクターはいかに直接・間接的に独自のプログラムを構築しうるかを示し、マーケットの拡大と供給の安定につながる様々なアプローチの概要を説明することができる。

農業関連セクターに従事するあらゆるステークホルダーは、本レポートの分析を啓発ツールや参考資料として活用し、よりよい農業手法と協働態勢の構築を目指すことができるだろう。

インクルーシブ・ビジネスに関するCSRアジアのレポートはこちらから https://goo.gl/AMKvHf
企業とSDGsに関するCSRアジアのレポートはこちらからhttps://goo.gl/AogdjV

執筆:リチャード・ウェルフォード