フィリピンで高まる持続可能な水産業に向けた動き




2018年2月26日~3月18日にマニラで開催された「サステナブル・シーフード・ウィーク」は、責任ある持続可能な水産物を称える年次イベントとなった。回を重ねるごとに一流ホテルの参加が増え、水産業界の主要なステークホルダーが一堂に会して持続可能な水産業と調達についてベストプラクティスを共有する場となっている。

マニラを拠点にプレミアムで持続可能な水産物の流通を手掛けるMeliomar Inc.が本イベントを取り仕切り、一流ホテルやフィリピン政府、NGO、調理関連団体、さらにCSRアジアを含む支援団体との連携を図った。イベント期間中は、料理コンテストから、優れた漁法の紹介、さらにCSRアジアが主催した小規模水産業者と包摂的ビジネスに関するワークショップなどさまざまな企画が催された。

世界的に展開するホテルチェーンは、サステナビリティの方針を策定し、国境を超えて本腰を入れて取り組む流れである。こうした中、フィリピンにおける持続可能な水産物への需要は今後一層高まっていくだろう。

海洋管理協議会(MSC)と水産養殖管理協議会(ASC)は水産物に関する2大認証制度である。フィリピンではMSCもしくはASC認証製品を提供している水産業者や養殖業者は現時点ではいないため、ホテルチェーンはサプライヤーと連携してサステナビリティの取組みを達成しなければならない。例えばハイアット・ホテルズは世界中から仕入れる水産物の50%を責任ある調達によるものとし、このうち最低でも15%をMSCもしくはASC認証の水産・養殖業者から調達する目標を設定している。その達成に向け、ティア2基準を適用し、必ずしもMSCやASC認証済みでなくてもサステナビリティ基準を満たす水産業者や養殖業者との取引を進めている。地域によっては認証済み製品をまだ調達できる段階にない場合があるため、サプライヤーと協働して解決策を打ち出すことが不可欠である。

選択肢の一つである第三者認証済みの水産物は最も包摂的であるか

責任ある漁業を担保する上で認証の取得が有効だと思われているが、フィリピンの何百万もの小規模水産業者や養殖業者がその恩恵にあずかるとは限らない。漁業認証の取得にかかる費用は小規模で単純な漁法では1万米ドル、大規模で複雑な漁法になると10万米ドル以上1 もかかるのだ。フィリピンの最貧困層を占める漁師には手の届かない選択肢である2。同国では商業的漁業者16,500人3に対して小規模漁業者は100倍近い1,614,000人にものぼる。このため排他的で高価な認証制度により、小規模漁業者が置き去りにされないよう図っていく必要がある。

「サステナブル・シーフード・ウィーク」では、イベントパートナーを務めたRAREがいかにして160万人の小規模漁業者を取り込んでいるかについて紹介した。多くの場合、加工業者や流通業者が直接鮮魚を買い入れるため、水産物の価格を引き上げる上での足かせとなっている。RAREは以下の2つの方法を通して、水産物がより高値で取り引きされるよう支援している。

  • 付加価値をつけるトレーニング:魚を干物にしたり、マリネ、包装したりするなど、付加価値のあるサービスについてトレーニングを行い、地域が一丸となって水産業に取り組むことで、市場価格を高めていく。
  • 適正な市場価格の保証:サステナビリティ原則を守る漁師から高値で水産物を買い取ることで、責任ある漁法を後押しするインセンティブとなる。

草の根レベルに展開するRAREのソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)は、サステナブルな漁法を取り入れるよう漁業コミュニティに直接働きかけ、支払い猶予期間の設定や地元漁師の行動変容を後押ししている。啓発キャンペーンでは持続可能な製品の価値を強調し、未成魚の漁獲を避ける方法や政府・地域の水産管理機関への漁獲量の報告方法についてもトレーニングを行っている。旬の時期に適正な漁業者が操業することで、地域レベルでサステナブルな水産業を総合的に促進しているのだ。

インクルーシブ(http://csr-asia.com/images/csr/news/jw0314.jpg包摂的)なビジネスとは(1)貧困層による製品・サービスのアクセスを改善し、(2)低所得層に対して生産者・サプライヤー・流通業者・雇用主・従業員として収入や雇用のチャンスを提供することで開発を支援する事業体である4。フィリピンの水産業を例にとると、インクルーシブ・ビジネスの確立には、持続可能な漁獲や養殖魚の安全性の向上、さらに地域コミュニティが潤う特産物が不可欠である。RAREの取組みはボトムアップ型のインクルーシブ・ビジネスの成功例となっている。しかしフィリピンを含む各国に展開する一流ホテルと小売業者は、バリューチェーンの末端に位置する民間企業として、いかに水産物サプライチェーン内での包摂的ビジネスを推進できるか、という点にフォーカスしている。

CSRアジアはコンサルティングの一環として、民間セクターでの包摂的ビジネスモデルの展開を支援している。例えば以下の3つの方法により、水産業界で包摂的ビジネスモデルを活用し、持続可能な水産物を促進することができる。

  • トレーニング:持続可能な漁法や付加価値をつけるサービスなどのトレーニングを提供し、水産物の品質・価値・価格の向上を支援する。
  • 持続可能な水産物に適正価格を支払う
  • 地域コミュニティでの買い付けを一元化するプラットフォームの構築:小規模水産業者は連携が取れていないため、製品の市場アクセスが限られている。水産物の売買を一箇所に集約することで、市場アクセスの確保につながる。

CSRアジアは、小売業者やホテルチェーンなど、バリューチェーンの川下に位置する民間企業向けのレポートを今月末に発行予定である。この中でバリューチェーンに潜むリスクについて解説し、さらに包摂的ビジネスモデルを活用して持続可能な水産物を促進することで女性の経済的エンパワメントにつながるビジネスケースを検証している。

小規模生産者のインクルージョンについては、以下のレポートでも詳述あり

Agribusiness in ASEAN: Making the Case for Smallholder Inclusion

Agribusiness and the SDGs

推奨文献

1. The Marine Stewardship Council Fisheries Certification Program: Progress and Challenges – Marine Stewardship Council

2. Fishermen, Farmers and Children remain the poorest basic sectors – Philippine Statistics Authority

3. Fishery and Aquaculture Country Profiles – The Republic of the Philippines – Food and Agriculture Organisation

4. Inclusive Business – Asian Development Bank

執筆:ジュリア・ホイットニー