「不可抗力」では済まされない 気候変動 訴訟への動き




気候変動を巡り、司法の世界は新たな局面を迎えている。

気候学者は人為的要因による気候変動で、異常気象の頻度や深刻度がどの程度増したかを調査している。その対象は2010年にロシアを襲った熱波から、2012年~2017年の5年間にわたるカリフォルニアでの干ばつを網羅している。アメリカ気象学会が発行した年次報告書は、2016年に過去最高値を更新した世界の平均気温(record global temperatures in 2016)、アジアを襲った猛暑(extreme heat in Asia)、さらに亜北極帯で発生した「ブロブ」と呼ばれる暖水塊(unusual “blob” of warm water)はすべて、気候変動に起因していることを初めて指摘した1

環境損害の予見可能性を前提に、多くの国で注意義務が強化されている。これまで「不可抗力」と見られてきた気象現象が、温室効果ガス(GHG)の排出と関連づけられるようになり、民間企業や産業界、政府機関、その他の政策立案者は想定しうる環境損害の防止および将来的な計画の策定に法的責任を負うことになる2

実際に気候変動に関連する損害賠償請求や責任を問う訴訟が続いている。2017年3月までに米国での提訴は654件にのぼり、さらに23カ国(EUを加えると24)ヵ国でも230件を超える提訴が起きている3

カリフォルニア州での気候変動訴訟
2017年以来、カリフォルニア州の複数の自治体や郡がエネルギー企業を相手取り、気候変動を加速化させ、地域社会が影響を被ったとして責任を追及している。サンフランシスコ市やオークランド市、サンタクルーズ市、インペリアル・ビーチ市、リッチモンド市、さらにマリン郡とサンマテオ郡、サンタクルーズ郡などが原告となっている。

被告側はシェブロンやBP、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油・ガス・石炭のエネルギー企業約30社。高額納税者である著名な大企業を州立裁判所に提訴するという、大胆な動きであった。「健康に危害を及ぼす」活動として、「パブリック・ニューサンス(公的不法妨害)」に関するカリフォルニア州のコモン・ロー(慣習法)に基づいて提訴に踏み切った。

カリフォルニア州は海面上昇に備えて防災インフラの整備、道路・橋の補強など、気候変動に対して強靭な社会の構築に何億ドルも投入している。しかしながら気候変動が公共インフラに与える損害は数十億ドル規模に達する見込みである。このため、訴状ではエネルギー企業に対してこれまでの事業活動が気候変動に与えた影響と損害を補償するのみならず、今後のリスクにも対応することを求めている。

訴状では、エネルギー企業が自らの企業活動が気候変動に悪影響を与えると知りながら何十年にもわたり石油・ガス・石炭の採掘・販売を継続してきた点を指摘する一方、「海面上昇や気象災害の激甚化から自社の資産を保護する対策を講じる企業も中にはあり」、さらに「北極で進む永久凍土の融解により資源を採掘して一攫千金を狙い」新技術の開発に乗り出す企業までいると訴えている。

2018年1月にはニューヨーク市も石油大手5社を相手取り、ニューヨーク州南部連邦地裁に提訴した。ロサンゼルス市議も提訴に向けた動議を提出し、コロラド州のボルダー市も法的手段に訴えることを検討している。

判決が出るにはまだ時間がかかるが、原告側が勝訴した場合には社会全体に大きな影響を与え、さらなる訴訟を呼び起こすだろう。アリゾナ州のフェニックス市は熱波、コロラド州のボルダー市は温暖化によるスキーシーズンの短縮、さらにテキサス州のヒューストン市は豪雨の損害賠償を求める可能性がある。

アメリカでは1990年代にたばこ業界を相手取り、46の州政府および6の連邦政府機関が提訴した前例がある。この時はたばこに関連した健康被害に対して、たばこ会社側が州政府に最低でも2,060億ドルを25年かけて支払うことで両者は和解した。

世界各国での気候変動訴訟
Urgenda財団 対 オランダ王国:Urgenda財団と900人のオランダ市民はオランダ政府に対して、2020年までに二酸化炭素の排出を17%削減する目標は不十分であり、憲法で定められている「注意義務」への違反だと提訴した。2015年にハーグ地方裁判所は、違法であると採決し、最低でも1990年代レベルの25%削減することを命じた。

Leghari 対 パキスタン共和国:パキスタンでは農業を営むAshgar Leghari氏がパキスタン政府を相手取り、「2012年の国家気候変動政策および政策執行フレームワーク(2014-2030年)執行の遅れにより、国民の基本的な権利が侵害された」と訴えた。2015年、パキスタンの控訴裁判所はこれを認め、政府に対して優先的な取組みをリストアップし、進捗状況を監視する独立委員会を設置するよう命じた。」

Lliuya 対 RWE:ペルーのワラス市で農業を営むペルー人Saúl Luciano Lliuya氏は、ドイツ裁判所に対して、ドイツ電力大手RWEを提訴した。訴状ではRWEが気候変動への悪影響を知りながら温室効果ガスを大量に排出したことで、生まれ故郷近くの氷河の融解を招く一因になったと指摘した。2017年11月、控訴裁判所は原告の訴えを受理しうると判断した。気候変動に影響を与えるとして、特定の汚染者の責任を問う画期的な司法の動きである。

Juliana 対 アメリカ合衆国:2015年に10~20代の若者21人は、アメリカ政府を相手取り、オレゴン地区連邦地裁に気候変動の責任を問う訴えを起こした。訴状では、連邦政府の政策が化石燃料の開発を後押しし、憲法が定める若者世代の生命と自由、財産を守る権利の保証を脅かすと同時に、天然資源を公益受託として管理する義務を怠ったとしている。サンフランシスコの第9巡回区控訴裁判所が審理を開始するよう決定した場合、歴史的な判決に繋がる可能性がある*。
[*2018年3月7日、第9巡回区控訴裁判所は司法省の棄却請求を却下し、審理継続のために裁判所に差し戻した}

フィリピン人権評議会とカーボン・メジャーへの調査申立て
フィリピンを直撃した巨大台風「ハイヤン」の被害を受け、グリーンピースは環境NGOとフィリピン市民と協働し、フィリピンの人権評議会に対して、石油・ガス・石炭・セメント業界の47社(カーボン・メジャー)が気候変動を悪化させ、人権侵害と脅威を招いた責任について調査するよう申立てを行った。評議会は2018年にフィリピン国内外で様々な形で実態調査および公聴会を展開していく予定だ。
気候変動に関連する人権侵害に対して、国境を越えて企業の責任が問われる前例のないケースとなっている。

提訴に向けた機運の高まり
憲法や慣習法、さまざまな法令により、各国政府は国民や庇護のもとにある人々が被害に遭うことを防ぐ義務があると規定している。気象変動が悪影響を及ぼす中で、公有資産の設計や建設、維持・管理を担う民間セクターの企業や専門家は、主権免除が適用されないことで今後はさらに大きな法的責任を問われる可能性があるのだ。企業幹部や受託者は、企業の利益を最優先に誠実に取り組み、さらに配慮とデューディリジェンス、スキルの活用を怠ることがないよう、企業と株主に対して責任を負っている。

異常気象事象の帰属について科学的知見が蓄積するにつれ、リスクの高まりについて確実性や確証性、警戒レベルが明確になり、特定の気象事象や特定の場所における気象パターンの予見可能性が高まる。官民問わず、気候変動に関連するリスクに備え、知識を持つ義務を負うのだ。さらに気候変動が物的資産や人々に及ぼしうるダメージを予測し、リスク管理をしなければならない。

今後、ますます多くの市民や団体が、政府と民間セクターを相手取り、気候変動に対する行動や怠慢について責任を追及していくことになるだろう。

1. Herring, et al., Eds., 2018: Explaining Extreme Events of 2016 from a Climate Perspective. Bulletin of the American Meteorological Society99 (1), S1–S157.
2. Marjanac, S., L. Patton, and J. Thornton, 2017: Acts of God, human influence and litigation, Nature Geoscience10, 616-619.
3. UNEP, 2017: The Status of Climate Change Litigation – A Global Review http://columbiaclimatelaw.com/files/2017/05/Burger-Gundlach-2017-05-UN-Envt-CC-Litigation.pdf
執筆:リタ・ユー