企業が直面する水リスクを軽減するには




南アフリカのケープタウン市が水の保全政策を打ち出し、国際的な称賛(international acclaim)を浴びたのは遡ること3年前である。しかし現在、同市は未曽有の渇水危機(facing a severe water crisis)に直面し、今後3カ月以内に水の供給を停止せざるを得ないと予測されている。人口増加に加えて、多様な水源の欠如、さらに近年の深刻な干ばつが重なり、市内全域での断水を迫られる「デイゼロ」が近づいているのだ。

水はまさに希少資源である。地球上の水資源のうち、淡水はわずか3%であり、このうち三分の二は帯水層や氷河として固定されているため飲料水としてアクセスできない(下図参照)。何年もの間、水の欠乏は地球規模の問題とされてきた。世界保健機関(WHO)によると、すでに4割の人々が水不足の影響を受けている。加速する人口増加に、気候変動による予測不可能な天候パターン、さらに水質汚染が追い打ちをかけている。つまりケープタウンでの危機は他の先進都市(other developed cities)でもいつ起きても不思議ではない状況なのだ。

企業にとって水へのアクセスは必須だ。水不足により深刻なビジネスリスクに晒されるのは、サプライチェーンの中に水依存度の高い製造工程を抱えるセクターである。特に農作物に大きく依存するセクターなどを含め、水不足や劣悪な水質、水価格の高騰がもたらすリスクは大きく、事業活動やサプライチェーンにダメージを与えてしまう。

数社の先駆的企業は別として、多くの企業のウォーター・スチュワードシップ(責任ある水資源の総合的管理に向けた行動規範)は経営効率と汚染削減に主眼を置いてきた。その結果、持続的な水の安定供給を確実にするという、根本的な解決には至っていない。取水量や水質汚染により引き起こされる水ストレスは局地的である。このため水の供給を適正に管理するには、地域の実情を加味する必要がある。以下の3点を盛り込む「コンテクストベースの水目標(CBWT)」が有効である。

  • 地域の河川流域の現状に関する科学的理解
  • 地域およびグローバルな政策目標
  • 多様なステークホルダーのニーズと視点

河川流域の現状を科学的に把握することで、企業は取水の限度量を理解した上で事業内容と水の必要量を調整することができる。例えばコカ・コーラ(Coca Cola)は各製造工場で水源脆弱性アセスメントを行い、自社事業や地域コミュニティ、さらに周辺の生態系まで影響を及ぼしうる水質および水アクセスのリスクを特定している。水の安全保障の状況を包括的に評価するため、水質の現状と履歴、さらに異常気象や自然災害による水ストレスの要因と潜在的リスクを網羅している。

健全な事業方針と共に、CBWTは地域の公共水資源政策とある程度足並みを揃える必要がある。地方自治体が取水量と水質汚染について適正な法的制限を設けた場合、その政策に合わせることで地域の社会的・経済的ニーズに応えることができる。さらに地域のステークホルダーと協働し、共通の目標に取り組むチャンスともなるのだ。

「持続的な河川流域の限界値」を設定することで、企業とステークホルダーが共に恩恵を受けることができる。この限界値とは、地域の水資源の長期的な供給力を犠牲にすることなく、コミュニティと環境のあらゆるニーズに応えられる限度を指している。設定された「持続的な河川流域の限界値」の達成に向けて、企業が自社の目標を併せて調整していくことが理想である。その結果、企業にとり以下のプラスとなる。

  • 事業による長期的な環境面での責任が予測しやすくなる。
  • ステークホルダーとの摩擦の危険性が低くなる。
  • 規制の変化による不確定要素が減る。
  • 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)など、地域・国家・国際的な開発の取組みに貢献することができる。

企業のために働くその他のステークホルダーにも、企業投資やイノベーション、能力開発、意識啓発によるプラスの効果が生まれる。以下の図は、企業が徐々にCBWTアプローチに切り替えて行くステップを示している。

 

出典: CBWTを活用した企業の取組みに向けて(2017年)

ケープタウンでの水不足は、現代社会が直面する水の危機の一端を示している。ウォーターフットプリント(水の使用と関連するインパクト)が大きい企業は、これまで以上に河川流域の現状を考慮に入れた積極的な水管理に乗り出す必要がある。企業はCBWTアプローチを活用することで、河川流域に関する科学的情報および政策を加味する包括的な取組みが可能となるのだ。

水リスクを憂慮する企業は、サプライチェーン全般にわたる水の利用を調査すべきである。サプライチェーンのどこで水集約型の事業活動が展開しているかを特定し、その気候条件を把握することで水リスクの高い地域であるかを判断できる。その上で、地域の河川流域に関する科学的知見や水資源政策、さらにステークホルダーからの反応に基づいて水使用実績指標を策定することが有効である。地域の実情に足並みを揃えたオーダーメイド型の社内目標を設定し、水の供給を確保しながら地域コミュニティの健全な環境および経済状況に貢献できるのだ。

参考文献:

執筆:ジョセリン・ホー