アセアンの巨大都市が将来の食料不足のリスクに備えるには




2050年までに、ASEAN地域人口の60%が都市部に居住すると推計されている。ASEANは世界に22都市ある巨大都市のうち13都市を擁するが、2025年までに巨大都市は20都市に増大すると見られる。1 ASEAN地域で急増する都市人口により、食料需要が急拡大している。人口増加とスプロール現象(訳者注:無秩序に都市が周辺に広がっていくこと)とが相まって、すでに将来の食料安全保障に暗い影を落としている(already causing concerns)。拡大し続ける食料需要に対応するには、2050年までにアグリビジネス(農業関連産業)の生産性を70%向上させなければならない。

世界銀行の推計によると、農業セクターでの成長は、他のセクターと比べて、貧困の撲滅に2~4倍の効果があるとされる。ASEAN地域では3,600万人(36 million people)もの人々が、貧困ラインを下回る生活を強いられているため、同地域のアグリビジネスが社会的・経済的発展を推進することで大きなチャンスが生まれる。さらに安定した気候や肥沃な土地、自然豊かな地域性に恵まれたASEAN地域は食料生産に最適なため、投資家にとっても朗報である。なぜなら農作物と家畜の生産にとどまらず、食料サプライチェーンの管理や農業インフラと安全性、食料貯蔵、品質保証においてもチャンスが広がるからだ。2ASEAN諸国は主要作物や食物の一大生産拠点となっているが、その生産能力には拡大の余地がある国が多い。ASEAN地域の都市はこれまで経済成長を最優先させたため、見過ごされてきた食料供給の強靭性というリスクに取り組むべき時でもある。

都市人口の食料需要が増大する中、都市部の拡大により肥沃な土地が失われている。農業と都市が天然資源を巡ってせめぎ合いを続け、中でも水の争奪戦は深刻である。3さらに耕作地と都市の距離が離れるほど、輸送と貯蔵コスト4がかさみ、食品の値上げという形で消費者に跳ね返る。工業化に加えて大都市で無秩序に加速する都市化により、伝染病の大流行や食料と水供給の不安定化、気候変動に関連する疾病のリスクなど、人間の健康と環境が蝕まれている5。歯止めがかからない都市部の拡大により、気候変動のマイナス影響が深刻化し、特に都市部の貧困層を直撃する「食の砂漠(food deserts)」や不安定供給を招くことになる。食料と水供給の不安定化は、気候変動と異常気象と相まって、供給不足のリスク増大や食の安全性(food safety)をめぐる不祥事がすでに現実のものとなっている。

今後30年に開発が進むASEAN地域の都市部では、スマートシティを実現することで、より環境に配慮し強靭な都市計画とインフラ整備を推し進めるチャンスとなる。6

世界の食料生産の80%は依然として農村部の家族農家が担っているが、最近の傾向として、市街地とその周辺で、園芸作物や家畜、水産業、林業、牛乳生産を含む農業を展開するケースが増えている。都市および近郊農業(都市部および周辺地域での植物栽培と動物飼育)は、新鮮な食料の提供や雇用の創出、都市の有機廃棄物のリサイクル、グリーンベルトの育成、さらに気候変動に対する都市の強靭性向上にもつながる。7都市農業は増加する都市人口の食料アクセスを改善することで、都市部の貧困層の食料安全保障を強化するのだ。食料需要に応えるのみならず、資源効率を向上させ、女性の経済的自立を促進し、気候変動の緩和につながる可能性もある。8

生産的で持続可能な農業を確立するには、生産性を向上させるイノベーションの推進が不可欠である。長期的に見ると、農業の生産性向上には、たゆまぬ技術的進歩と社会的イノベーション、さらに新たなビジネスと投資モデルを要する。9農産物ビジネスセクターは革新的な新製品とサービスを後押しする一方、ASEANで急成長する都市が抱える社会と開発をめぐる喫緊の課題解決を図ることで経済的価値を生み出すのだ。

企業はより持続可能な戦略を打ち出し、協働態勢のもと包摂的な成長を目指すことが地球規模で求められている。企業が人と地球に及ぼすマイナス影響を最小化し、プラス効果を最大化することで、いかに持続可能な開発を推し進めていくのか企業は提示する重要性が増している。企業はリソースや能力、創造力を駆使して地球規模の課題に対して真の解決策を図ることができる。持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)が掲げるグローバルな課題の解決に向け、農産物ビジネスセクターは主導的な役割を果たせるのだ。増大する食料需要への対応能力を兼ね備え、管理の行き届いた農産物ビジネスセクターは、持続可能な開発目標の「1.貧困を終わらせ」、「2.飢餓ゼロを目指す」ための各国政府の取組みへの追い風となる。10さらに都市農業地域で持続可能なインフラに投資し、土地活用を改善して農地を管理し、都市農家と地域のサプライチェーンを繋ぎながらトレーニングや資材を提供することで、「開発目標11.包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市および人間居住を実現する」こともできる。都市農業は小規模で生産量も少ないのが現状であるが、アグリビジネスが音頭を取って農村部と都市部を繋げ、食料の栽培・加工・販売場所と方法を再考することで、生産性を飛躍的に向上させることができる。都市の食料システムの強靭性を向上させる取組みを先導し、都市部での衛生や水質、廃水管理、栄養、緊急時の人道支援を促進させることが有効である。

2030年までにSDGsを達成するには、社会のニーズにより良く応え、限りある地球の資源を超えない発展を進めるグローバル経済が唯一の道である。2030年には大多数の人々が都市部に居住し、自らが消費する食物についての知識も限られ、直に入手することも困難になるだろう。こうした繋がりが切れることのしわ寄せは、変動する食品価格への対応能力が限られ、安定した食料供給へのアクセスがない貧困層を真っ先に直撃するのだ。人口密集都市での社会的不平等のリスクが高まる中、企業と政策立案者は、安定した包摂的で持続可能な成長を促進すべく、ASEANの巨大都市における強靭な食料システムの構築を早急に検討しなければならない。

強靭な食料システムの構築の中でアグリビジネスが果たしうる役割の詳細については、CSRアジアのウェブサイトおよびレポート「アグリビジネスとSDGs:ASEANのアグリビジネス・セクターはいかに持続可能な開発目標を推し進めることができるか」をご参照。
レポート本文(英文)はこちら:Agribusiness and the SDGs: How the Agribusiness Sector in ASEAN can embrace the Sustainable Development Goals

写真: Courtesy of Christopher DeWolf, Slate Magazine
文末脚注 出典:

1. Asian Water Development Outlook 2016 – Asian Development Bank
2. Agriculture | ASEAN Investment
3. 11. Sustainable cities and communities | Sustainable Development Goals – FAO
4. Valuing the SDG prize in food and agriculture – ValueWalk
5. Report of the ASEAN Regional Assessment of MDG Achievement and Post-2015 Development Priorities – UNDP & ASEAN
6. Making Growth More Inclusive – United Nations ESCAP
7. 11. Sustainable cities and communities | Sustainable Development Goals – FAO
8. Valuing the SDG prize in food and agriculture – ValueWalk
9. The future of food and agriculture: Trends and challenges – FAO
10. Agribusiness rules lag in agriculture dependent countries – World Bank
執筆:レベッカ・ウォーカー・チャン