ネットの情報漏洩から学ぶ「責任あるビジネス」とは




パラダイス文書の重要性

今月、約1,340万件にのぼる電子文書が流出した。パラダイス文書と名づけられたこの極秘文書により、何百人もの高額所得者とグローバル企業によるオフショア投資の実態が明るみに出た。銀行や法人、香港ハンセン指数(HSI)とFTSE100指数に名を連ねる大企業を顧客とするオフショア金融専門の法律事務所「アップルビー」および複数のビジネスサービス業者が流出元であった。パラダイス文書には、巨万の富を築くグローバル企業(wealthiest corporations)や資産家が、タックス・ヘイブン(租税回避地)を隠れ蓑に課税を逃れる方法が詳述されている。

BBCの推計によると、前述のオフショア口座の総額は10兆米ドルに上り、日本と英国、フランスのGDPの合計額にも匹敵する。11月に流出したパラダイス文書に対して国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は一連の調査を行い、愛着のあるブランドや信頼してきた組織による不誠実で透明性を欠く行動は大衆の怒りを買うことになり、メディアの追求に拍車がかかった。

過度な租税回避策が招く企業イメージの低下

過去に起きた情報流出では、人から人を介して物理的に情報が伝えられたため、地球規模で拡散することはほとんどなかった。技術の進歩により、今では瞬時に膨大な情報が転送されてしまう。デジタル・データの安全性とサイバーセキュリティのリスクが企業の事業活動を脅かしている。パブリックWi-Fiに接続するだけで、機密保持違反や極秘文書を脅威にさらす危険性があるのだ。パラダイス文書で実名が暴露された大企業には、世界最大のIT企業であるアップル社も含まれていた。同社は租税回避策として、タックスヘイブンの英領ジャージー島に海外子会社の管轄権を登記することで、南北アメリカ大陸以外で得た利益に対する法人税課税を免れようとした。結果的にアップル社の製品を購入する消費者が不当に課税分を肩代わりすることになる。皮肉なことにITの巨人であるアップル社のデジタル・データが盗まれたことで、精鋭のハイテク技術集団でもサイバー攻撃の対象になってしまうことを図らずも露呈したのだ。

透明性の欠如が招くリスク

今回のパラダイス文書は、超富裕層による無謀な租税回避策の実態を暴き出しているが、他にも同様の内部文書の流出が続いている。違法行為ではないものの、秘密主義や納税という社会契約の不履行によって社会的な信頼を失墜させ、失望を招く。リーマン・ブラザーズの破綻により2008年に引き起こされた世界的な金融危機は、向こう見ずな危険行為と秘密主義による教訓をわれわれに示したはずだが、実際には活かされなかったことになる。

今日のユビキタス社会では、企業と顧客(B-C)の関係性が新たな様相を見せている。企業はもはやブランドの訴求力を高めたり、魅力的な商品や価格帯を提供したりするだけでは足りないのだ。モバイル技術を使いこなすミレニアム世代は絶え間なくネットにアクセスし、それに伴い企業はかつてない規模で製品の情報を開示するよう求められている。その結果、製品とそれを提供する企業は自らのプラスの影響力を証明する必要があるのだ。これは個人に対してのみならず、社会や地球というはるかに大きなスケールでの影響力も含む。このような高い期待の中、企業は事業を展開するコミュニティにもたらす価値を問い、モラルに反するビジネスを秘密裏に行うことによるリスクを理解する必要がある。

大企業は事業を展開している社会が掲げる価値観と足並みを揃えることを世論は期待し、要求している。これには納税義務を果たすという社会的ルールも含まれる。製品を販売している高税率国での収益を低税率国に移す行為そのものは違法ではない。しかし結果的に製品販売国では本来入るべき税収が減ることで、地域社会の発展を促進する学校や道路、ヘルスケアへの投資が手薄となってしまう。企業が税負担の仕組みを公表するよう強制化する法案を求める動きがすでに出ている。企業が自主的にビジネスプロセスを一般向けに公表し、信頼と支持を取りつけ、社会と長期的な関係を保ちプラスに作用する倫理的なビジネスができることを保証しない限り、法案を策定する重要性はますます高まるのだ。

企業とコミュニティ双方の価値を高める

株主に利益を生み出しつつ、事業を展開するコミュニティ支援を両立させることは双方にとり有益である。確実に行うことで、信頼を勝ち得ると共に、事業方法への透明性が高まり、ブランドへのリスクが低減し、社会的に信頼できるメンバーとしての足場固めとなるのだ。企業は社会と関わり、信頼を生み出し、企業の価値創造を促進する社会的ニーズを特定することで地域社会の発展を支援することができる。こうして生み出された価値は、企業の最終損益を改善するのみならず、同時に社会に価値をもたらすのだ。結果的に、企業は地域社会から高い評価を受けるようになり、企業の最終収益を押し上げ、地域社会との関係が強化され、投資家に長期的な価値をもたらす。これまで長いこと環境配慮型ビジネスや責任ある投資を呼び掛けてきたが、これからは企業が事業を展開するコミュニティに真の価値を生み出すことが不可欠である。まずは納税義務を果たすことで透明性を確保し、さらに情報を公開していくことが先決である。

いかに共通価値を創造するか、さらに自社内で新たな共通価値の取組みを進める機会を活かす方法について理解を深める時です。CSRアジアは「社会的イノベーション・起業支援ファンド(SIEファンド)」と共催で、香港にて半日の集中講座シリーズを展開していきます。トピックは「廃プラスチック、人口の高齢化、人種の壁を取り除く、リスクを抱える若者、障害者ケア、住宅危機、食品廃棄物」を網羅します。共通価値の概念を理解し、都市が抱える真のニーズを直に学ぶチャンスです。詳細についてはケリー・クーパーまで kelly.cooper@csr-asia.com

参考文献:
BBC World “Paradise Papers: Everything you need to know about the leak”
http://www.bbc.com/news/world-41880153
Shared Value Forum 2017, Hong Kong
http://www.sie.gov.hk/sharedvalue/2017forum/index.html
執筆:ケリー・クーパー