持続可能な食への歩み




ビ―ガン(完全菜食主義者)にならなければ持続可能な食事はできないのか。このスズキのムニエルが食卓に辿り着くまでに現代版奴隷制に加担し来なかっただろうか。この料理を残さず食べ切らないといけないのか。

消費者が商品を選ぶ際の所要時間は、平均して2秒にも満たない。国際会議場でのビュッフェ・ランチでは、参加者が長い列を作り、さらに即決しなければならない。環境や社会的責任にまで考えを巡らすことは不可能だ。責任ある消費について力説するだけでなく、実践したいと思いながらも、ビュッフェの列で食材を吟味していては、クライアントやビジネスパートナーの前で恥をかくことになる。まさに危険地帯なのだ。

では消費者に選択を強いるのではなく、あらゆる選択を持続可能なビジネスモデルに置き換えた場合はどうだろう。食べ物自体が持続可能な食品システムについて雄弁に語る仕掛けをすることで、すでに盛り沢山な会議のスケジュールに新たなセッションを加える必要がなくなるのだ。

今年9月にバンコクで開催されたCSRアジア・サミット2017で、CSRアジアは国連環境計画(UNEP)や会場となったアマリ・ウォーターゲート・ホテル、ONYXホスピタリティー・グループと協働し、会議に参加した500人に持続可能な食を実体験してもらった。500人クラスの会議でのケータリングに持続可能性の概念を盛り込むことは、タイでは最大規模の試みであった。9月27日に開催されたサミットは、折しも「世界観光の日」と重なり、さらに2017年は「持続可能な観光国際年」という絶好のタイミングとなった。

CSRアジアでは今後もいろいろなイベントを通して、持続可能な食について企画を行う予定である。今回と同様のケータリング形態や、さらに発展させた企画に興味がある企業の参考となるよう、我々の取組みと教訓を以下に共有したい。究極の持続可能なメニューとはいかなくても、一歩を踏み出すきっかけとなるだろう。

  1. 持続可能な食について、シナリオを描く。さまざまな切り口からのアプローチが可能だが、CSRアジアでは話し合いの糸口として最もふさわしい「責任ある水産物」、「ベジタリアンとビ―ガンのタンパク源」、「コミュニティ・ベースの家畜生産」、「地産・認証済み食材」、「メニュー・デザイン」、「食品ロスの削減」という点に絞り込んだ。ホテル側から、「現地調達」、「都市農業」、「養蜂」という3基準が加えられた。1継続的な改善を図る画期的なアプローチにより、CSRアジアとホテル、サプライヤーの間で持続可能性について「食の対話」が続いた。
  2. メニュー・デザインで協力する。シェフと協力してメニューを考案し、双方にとって最も重要な基準を選定する。シェフは創造力にプラスして持続可能性の基準と経済的側面を盛り込む必要があるため、メニュー・デザインは協働態勢で行い、シェフが当事者意識を持つことが不可欠である。さらにクライアントのニーズに応える、持続可能な選択肢を加味する必要がある。CSRアジアはUNEPと共に、アマリ・ホテル側に持続可能なメニューの大枠と我々が注目しているポイント・基準を提示し、それに照らして現行のメニューを評価してもらった。ホテルの調理担当チームは果敢に取り組み、メニューの原案をデザインし、UNEPとCSRアジアはそれぞれ2回コメントした。我々も協力し、ホテルは新たなサプライヤーを発掘することができた。1ヶ月半にわたるこのプロセスを通し、ケータリング・チームはホテル側の要件を満たすサプライヤーの生産量と品質について理解を深めた。料理長自らがシナリオを描き、都市農業やコミュニティとミツバチの個体数保全を支援する養蜂プロジェクト、健康的な食品、さらに地元料理についてメニューを通して発信した。料理長のインタビュー動画はここからアクセス here
  3. 責任ある水産物を調達する。我々は認証済みの責任ある地元の小規模水産業者から、持続可能な様々な種類の水産物を調達することに主眼を置いた。女性主導で環境・社会的に責任あるビジネスを展開し、タイ南部の漁村を網羅するネットワークを持つ漁民協会(Fisherfolk Association)を選んだ。環境に優しい漁獲方法に則り、持続可能な魚種のみを捕獲している。これは違法な漁具の使用や破壊的な漁業慣行、底引き網漁の全面的禁止を意味している。すべて有機魚でホルムアルデヒドを含んでいない(検査済み)。生産した水産物に対して、漁民は男女問わず適正で安定した収入を確保している。
  4. 低炭素メニューをデザインする。食品の中で、牛肉のカーボン・フットプリント(製品のライフサイクルを通した二酸化炭素の排出量)は最大であるため、会議のメニューから外すことにした。食材は持続可能な調達による鶏肉、豚肉、水産物に限定した。
  5. 食品ロスを撲滅する。メニューのデザインにあたり、特に配慮したのは食品ロスの削減である。余った食べ物はすべて地元で食料の救済を行うNPOのタイハーベストSOS(ThaiHarvest|SOS)に寄付された。チャリティー団体と協働したり、食品ロスを測定し削減するテクノロジーを活用することで、食べ残しやコストを削減することができる。例えばアナンタラ・ホテル・サイアムでは、食品ロス防止の技術を活用し、商業用厨房での食品ロスの大幅な削減とより持続可能な運営につながっている。クラウドに接続するデジタル重量計とタブレットにより、食品ロスを自動的に記録し、シェフは素早く手軽に食品の使用量を測定できる。さらにどこで食品ロスが起きているのかを日報で特定し、より効率的で持続可能な運営について考察している。ホテルの報告によると、月に300食が廃棄を免れたとしている。
  6. ベジタリアンとビ―ガン向けにタンパク質を提供する。乳製品と卵、植物ベースのタンパク質は栄養価の面では肉に類似しているが、環境フットプリントが小さい。ホテル側は会議参加者があまり肉を食べないように、無意識に食べたい物が変わるような目に見えない仕掛けをした。例えばヤギ乳チーズ添えロースト・ビーツやインド料理のダルマカニ(豆とバターのカレー)が看板メニューとして提供された。
  7. 地産で認証済みの食材を活用する。環境面で認証を取得している生産者から旬の果物や野菜、コーヒーを調達した。できる限り地産の食材を選び、フードマイレージ(食料の輸送距離food miles)を減少し、地域産業の振興に努めた。午後のコーヒー・ブレークで提供したスピルリナのスムージー(Whatpow)は、都市農業としてバンコクの屋上菜園で栽培されたものである。
  8. 小規模生産者と女性主導の組織と協働する。ホテルをコミュニティ・ベースの農家と協働させていくべきである。小規模生産者はネットワークの不均衡とリソースの不足により、市場およびホテルチェーンにアクセスできずにいるからだ。CSRアジア・サミットでは、自然かつ無農薬、人道的な飼育環境を守る地元畜産農家による鶏肉と豚肉を提供した。シリン農場(Sirin farm)は倫理的・環境的な基準を考慮し、長年にわたり家畜を飼育している。ミツバチの個体数を保全することで生態系を支える農村部と都市の養蜂家、さらに包摂的なビジネスモデルでコミュニティの協力を仰ぐことで、朝食とコーヒー・ブレイクで蜂蜜を提供することができた。プランビー(Plan BEE)はONYXグループが構築した主要な戦略的コミュニティ・プログラムであり、トウヨウミツバチを絶滅の危機から救うために、地域の低所得コミュニティと協働を図っている。採取した蜂蜜はONYXブランドでレストランやスパで提供されている。またホテルのギフトコーナーでも購入可能で、売上金はプログラムの支援に充てられる。
  9. コミットメントを表明する。持続可能性へのコミットメントを伝えるツールとして食事を活用できる。その手段にはラベルをつけて宿泊客向けに情報を提供する、ビデオを制作する、さらにフィードバックを呼び掛けることが有効だ。CSRアジアはホテル・スタッフと入念な打ち合わせを重ね、会議参加者への発信方法や情報として何を盛り込むのかについて詳細を詰めた。我々は「経験学習」の精神に則り、プレゼンテーションや報告書を通してではなく、食の実体験を通して親近感を抱き、情報を咀嚼し、意識を啓発するよう図った。
  10. 話し合いの場を創り出す。CSRアジア・サミットの参加者は、持続可能な食の意義について興味深い話し合いを繰り広げた。特効薬となる解決策はないので、活発な話し合いを目指し、その内容やフィードバックを検閲してはならない。図1が示すように、大多数の参加者は今回の取組みを「大変良い」もしくは「とても良い」と肯定的に受け止め、満足度が高いことが分かる。さらに今後の取組みに向けたヒントも示した。ビュッフェは常に食品廃棄物を無駄に生み出すため、持続可能性とは決して相容れないとの批判的意見も寄せられた。多くの参加者は食のストーリをさらに詳しく知りたかったとし、ラベルが小さすぎたため、中には全く気づかなかったと打ち明ける参加者もいた。
    今回の食の取組みを通して、ホテルとシェフ側から多くのことを学んだ。例えばシェフは事前にすべての食材を発注する必要があるため、小規模生産者との取引で時として起こる土壇場の変更が難しいのが現状だ。一般家庭では考える必要のない様々な要因を加味しなければならない。調理師の労働や食品の保存、配達計画、ビュッフェの見た目の美しさ、さらに顧客の期待などが挙げられる。また持続可能な食において、料理長自らが高品質の食材に日々接していることが最強の味方であることが分かった。

    今回の取組みはホテルのサプライチェーン全般における対話も強化した。生産者がシェフと話し合い、食品・飲料担当の責任者はオックスファムなどのNGOと協議を続けた。NGOは漁民協会やタイハーベストなど余剰食糧の削減を目指して支援している。さらにアジアで成長しているグリーン・コンシューマー市場の強化も目指した。

  11. ビュッフェの代替案を探る:エコビジネスが先日発表した記事(article)によると、ホスピタリティ業界は地球の食品廃棄物の源となっている。自明な解決策の一つとして、ビュッフェ・スタイルに替わる食事を提供することが挙げられる。
  12. 持続可能な調達方針に適応する。ホテルやレストランは調達方針を見直すことで、自前の施設に限らず調達方針を修正する体系的な変化を促すことができる。CSRアジアはオックスファムと協働し、海産物およびアグリビジネスに関する円卓会議シリーズを企画し、生産者に対して持続可能な方針への参画とコミットメントを促進している。

    写真クレジット: Amari Watergate Bangkok
    CSRアジア・サミットでの取組みの詳細については、こちらの動画をクリック here.

    1. 養蜂とは多くの場合人間による人為的な巣箱でミツバチのコロニーを保全することである。

執筆:クレイリア・ダニエル