企業のサステナビリティを価値につなげる




一段と注目される透明性

現在のビジネス界では、透明性なくして事業は成り立たない。企業の経営方法について、顧客はこれまで想像するしかなかったが、今では簡単に情報が入手できるのだ。投資家はビジネスチャンスと市場アクセスが広がり、ブランドの評判が高まり、リスクを回避し、さらに増資につながるかを見極めながら、サステナビリティに焦点を当てる能動的な意思決定を行っている。

国連責任投資原則(UNPRI)は「責任ある投資とは(‘What Is Responsible Investment?’)」と題する報告書で、「グローバリゼーションとソーシャルメディアが広がる世界において、気候変動や汚染、労働条件、従業員の多様性、汚職や強気の税戦略などの課題は企業の価値を損ない評判をリスクにさらす」危険性があるため、責任ある投資が脚光を浴びるようになった点を指摘している。

投資家はこれまで、これらの要因が企業業績にまでは影響を及ぼさないと考えてきたが、パリ協定(the Paris Agreement)への協議が加速化し、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goal’s)が採択された2015年を境に、透明性と責任ある包摂的なビジネス手法が一段と注目されるようになった。地方自治体や地域・国際的な政府機関は低炭素社会の実現に向けて政策の足並みをそろえ、国際的な枠組みを支持している。こうした中、ステークホルダーは企業に対して投資の対象や方法について、かつてないレベルで踏み込んだ透明性を求めている。メディアは法律違反を含め事業のコミュニケーションや透明性のテーマに注目している。例えばガーディアン紙(The Guardian)の報道によると、今年の8月にはオーストラリアの銀行が「気候変動がビジネスにもたらすリスクを適切に開示しなかった」として訴訟を起こされる前代未聞の事態に陥った。

統合型レポートが不可欠

シンガポール証券取引所(Singapore Exchange)は全ての上場企業を対象に、2017年度よりサステナビリティ報告を義務づけた。これを皮切りに報告の義務化が進み、昨年には香港証券取引所(The Hong Kong Exchange)が上場企業に対して環境・社会・ガバナンス(ESG)ガイドラインを強化した。「遵守せよ、さもなければ説明せよ」の原則に基づき、ガイドラインの要件を満たさない場合には情報開示しない理由を説明する必要がある。

グローバルな報告ツールを活用し、企業の最終損益にサステナビリティがもたらす利益について効果的に発信するなど、投資家と企業間の戦略的な協議が可能となった。統合型レポートは、生み出された価値を金銭ベースで伝えることもでき、短期的利益よりも長期的かつ持続可能な成長に結びつくのだ。ブラックロック会長兼CEOのラリー・フィンク氏を含むサステナビリティ意識の高い投資家は、ESG開示情報に応じて資金を配分したり引き揚げている。「21世紀のエンゲージメント(21st Century Engagement)」と題する同社報告書の中で、フィンク氏は「一流企業は、ビジネスのあらゆる局面を戦略的に運営し、投資家と企業を構成する人々が持続可能な財務実績を推し進める方法とリスクを理解できるように情報提供に努めている」とした。

先駆的な取組み

すでに20年以上前から他社に先駆けて、ESGを上手く事業活動に統合し、サステナブルな事業を展開しているのがアジアの不動産最王手(Asia’s top property developer)のシティー・ディベロップメンツ・リミテッド(CDL)である。CDLのサステナビリティ最高責任者エスター・アン氏は、同社のブランド力と差別化が投資家に目に見える利益をもたらしているとし、「金融業界ではリスクとリターンを見極める際に、責任とESG要因が重要な役割を果たしています。このため責任ある投資が新たな流れとなっているのです」と説明した。

CDLはシンガポール企業として初めてダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)とFTSE4Goodに上場し、「世界で最も持続可能性のある企業100社」に8年連続してランクイン、さらに2009年以来MSCIインデックスに名を連ねている唯一のシンガポール企業である。サステナビリティの世界的トップランナーとして名を馳せるCDL。アン氏は次のように説明している:「リサーチャーとアナリストはダウ・ジョーンズやチャンネルニュースアジア・サステナビリティ(Channel News Asia SustainAbility)ランキングを活用して企業の業績を追跡しているため、ESGランキングで上位に入るということは投資家を惹きつける上で有効です。」サステナビリティの先駆者として足場を固めたCDLは、さまざまな場面で国際的なビジネスパートナーを惹きつけてきた。例えば2014年には白金の高級住宅街で1.7万平方メートルにもひろがる由緒ある旧邸宅を購入するにいたった。

CDLは20年にわたって省資源・省エネアプローチにより持続可能で環境配慮型の住宅・不動産開発を手がけてきた。企業の成功を社会発展につなげる共通価値(shared value)のビジネス・アプローチに根差している。同社の価値創造モデルを通して「世界グリーンビルディング協会のネットゼロプログラム(Net Zero Agenda by World Green Building Council)」の推進を図り、商業用不動産のテナント向けにエネルギー消費量削減を支援してきた。2014年末からCDLは電力大手のトゥアス・パワーと協働し、エネルギー消費を自動記録するメーター・ポータルを開発し、テナントがリアルタイムでエネルギー消費量を追跡できるよう支援している。

CDLは新技術を活用し、環境課題の解決を図りつつ収益アップを達成している。運用コストと環境インパクトの削減から、2012年~2016年の間にオフィスビル8棟で1,200万米ドルに匹敵する省エネを達成した。統合型レポーティングによる情報開示で、CDLは測定可能な経済的価値のみならず社会への価値をも生み出していることが分かる。

先進技術により絶え間なく監視に晒されている企業には、否応なく透明性が求められている。「デジタル世界では消費者や投資家を含むあらゆる人が、企業の経営方法にアクセスできるのです。ニュースは違反行為をくまなく報じ、企業の評判に傷がつくことになります」とアン氏は説明する。「よい投資家は長期的な視点に立ちますが、今でも経済的な業績だけに注目する投資家がいます。しかし長期的なパートナーシップにより、投資先企業と共に成長する意志のある投資家も増えています。CDLは20年にわたり戦略と長期的で持続可能な成長を共有してきた熱意ある投資家に恵まれているのです。」

不必要なリスクを回避するため、企業はESGの成果を積極的に記録・開示し、競争力を保つために将来に備える必要がある。これを念頭に、CDLは「将来の価値2030サステナビリティ・ブループリント」を策定し、2030年に向けて様々な課題に対応し、成長を続けるべく目標を設定した。CDLは他社に先駆けて取組みを進めた結果、コスト削減を達成し、競争力を高め、さらに投資家と事業を展開するコミュニティ双方に長期的な価値を生み出すことができたのだ。

討議に参加を

CSRアジアサミットではCDLよりエスター・アン氏が登壇し、企業にとってサステナビリティの取組みがいかに経済パフォーマンスに結びつくかを議論していく。BASF・タイの取締役ぺトラス・ウン氏とEQT・アジア太平洋よりジョアン・ビゲ会長をパネリストに迎え、社会的に責任ある企業でいることでいかに純利益が増大し、リスクを軽減させ、長期的な価値創造と競争力のチャンスが広がるかについて討議する。成功事例を共有しながら、責任ある事業がもたらす具体的な利益の測定について検証を行う。サミット詳細はこちらからアクセスCSR Asia Summit、詳細はケリー・クーパーまでkelly.cooper@csr-asia.com

参照: 

HK Exchange: Press release:

https://www.hkex.com.hk/eng/newsconsul/hkexnews/2015/151221news.htm

UNPRI: What Is Responsible Investment? https://www.unpri.org/about/what-is-responsible-investment

CDL: ‘How We Create Value’: https://www.cdlsustainability.com/how-we-create-value/

World Green Building Council; Advancing Net Zero: http://www.worldgbc.org/advancing-net-zero

Creating Shared Value, Michael E. Porter & Mark R. Kramer, Harvard Business Review 2011 https://hbr.org/2011/01/the-big-idea-creating-shared-value

Progress Through Reporting: Get to grips with the six capitals: http://integratedreporting.org/what-the-tool-for-better-reporting/get-to-grips-with-the-six-capitals/

CDL Future Value 2030: http://cdlsustainability.com/pdf/CDL_ISR_2017.pdf

執筆:ケリー・クーパー