アジアのサプライチェーンでジェンダー・人権に投資するビジネスメリット




女性従業員の権利を擁護することは正当な行いであるのみならず、事業にとってもプラスとなる。SAPやユニリーバ、ボーダフォンを含む多くの企業では、事業やサプライチェーン全般を通してジェンダー平等を達成すべく取組みを進めている。これはジェンダー平等があらゆるレベルで企業の行動や業績に影響するとの認識に基づいている。サプライチェーンを網羅することでビジネスにプラスの見返りがあるのだ。国際金融公社(IFC)はアグリ(農業関連)・ビジネスが直面する喫緊の課題を克服するには、女性の資産へのアクセスとあらゆる面での参画が鍵となる点を指摘している。「アグリ・ビジネスのバリューチェーンにおける女性への投資(Investing in Women along Agribusiness Value Chains)」と題するレポートで、IFCはバリューチェーンの各段階における女性の貢献および制約を検証し、成功事例を挙げながら企業がジェンダー・スマートな投資を行うべき論理的根拠を示している。

2.4兆米ドル(USD 2.4 trillion)規模にのぼるアパレル業界では人権侵害や不適切な労働環境が日常的に横行し、ジェンダー平等がとりわけ急がれている。CSRアジアはケア・インターナショナルとGAP(衣料品・アクセサリー小売業)、GSK(ヘルスケアのグローバル企業)と共にアジアで何千人もの女性従業員をカバーしている複数の取組みを洗い出し、アパレル業界のサプライチェーンで女性とジェンダー平等に投資する意欲のある企業向けに勧告案をまとめた。以下に挙げる各社の取組みが示すように、サプライチェーンでのジェンダー平等を促進する戦略や取組みはその規模、内容ともに拡充され、さらなる女性のエンパワメントに向けてスケールアップを図っている。ジェンダー平等への投資がもたらす見返りを金銭ベースで算出するのは容易でないが、データは揃いつつある。このため数年のうちにジェンダー平等への投資利益率について具体的な数字が増えると予想される。

  1. 出勤率と生産性の向上に向け、女性のための組織づくりとリーダーシップに投資する

サプライチェーンでのエンパワメントとジェンダー平等を達成するには、 女性労働者がスキルや知識を習得して自信をつけ、女性のための組織を立ち上げることが不可欠である。GAPのP.A.C.E.(個人の能力とキャリアの向上:P.A.C.E. (Personal Advancement & Career Enhancement))プログラムは好例である。職場およびコミュニティでの意思決定と問題解決につながる基本的スキルの習得に向け、労働者を支援しているのだ。ケア・インターナショナルをメインパートナーとし、当プログラムをバングラデシュとカンボジア、インドネシア、ミャンマー、ベトナムの工場で10年にわたり実行してきた。国際女性研究センター(ICRW)によると、カンボジアでのP.A.C.E.プログラムに参加した女性たちは、1年以内にキャリアアップの可能性が3倍高まったと評価している。

P.A.C.E.プログラムは全ての参加者・関係者に有益なサステナブルかつスケールアップ可能なモデルであり、GAPはこれを活用してサプライヤーとの関係を強化している。ハーバードビジネススクールの分析(analysis)によると、インドではプログラム実施により出勤率と生産性が向上し、1年後に工場は純利益124%を達成、さらに20カ月後には420%にまで増大した。GAPは現在このプログラムをスケールアップし、2020年までに世界中で100万人の女性と女児に広げるとしている。

  1. ジェンダー平等への障壁を打破する取組み

女性を取り巻くサプライチェーンには、生産性と成長を妨げ、エンパワメントの支障となる特有の課題や障壁が待ち受けている。これらの障壁を理解し、戦略的に解決を図っている企業も多く、リーバイスが一例である。

同社はケア・インターナショナルと協働し、カンボジアの縫製業で働く女性労働者がリプロダクティブヘルスや母子健康、HIV/エイズ、栄養・衛生、さらに金融リテラシイーにわたる知識を深め、サービスへのアクセスを向上させるよう取組みを進めている。ケアの調査(research)によると、アパレル業界のおよそ3人に1人の女性労働者がセクハラの被害者となり、その損害額は年間8,000万米ドルに上っている。リーバイスとケアはセクハラの撲滅に投資し、マルチメディアを活用して労働者の行動改善トレーニングを行うよう工場経営者を啓発している。さらにセクハラの予防と対策に向けて経営システムを確立する等、セクハラ防止の方針を打ち出し成功事例につながるべく働きかけている。例えば労使双方から構成されるセクハラに特化した委員会の設置などが有効である。ケアは工場内でのトレーニングを含むアパレル業界におけるセクハラ撲滅に早くから取り組んだ結果、女性従業員の目に見えるセクハラ・リスクが20%減少した。

GSKはケアと長年にわたり協働し、ココン州で助産師とコミュニティの医療従事者をトレーニングすることで母子健康の改善を図っている。若者が人口の35%を占めるカンボジアで、GSKは国の将来を形づくる大人へと成長していく若者達を支援している。都市部に移り住む若者が急増したことを受け、GSKは2015年に若者の健康に焦点を移し、プノンペンで若い女性への取組みを支援するようケアに要請した。GSKはカンボジアのアパレル業界での若い女性従業員への活動を通してケアが培った専門性を活用し、リプロダクティブヘルスおよび母性健康、栄養など首都で働く多くの若者が直面する深刻な課題の解決に向けて、ケアに5年間の支援を行うことになった。GSKとケアがカンボジアで展開する活動の詳細についてはこちらからhere、もしくはケアのジェンダー平等ユニットまでご連絡くださいhere

  1. 男性の参画が成功の鍵

ジェンダー平等促進に向けた取組みは女性を中心に据えるべきだが、女性とビジネスにプラスの結果を生み出すには男性と男児の参画が不可欠である。工場の内外を問わず男性が参画することで、意図せざる悪影響(女性が知識・スキル・自信をつけることを脅威と感じる夫や雇用主によるリスク増大など)を回避し、ジェンダー規範に深く根差した女性と仕事へと進むことができるのだ。

ウォールマートがバングラデシュで展開する「工場の女性」イニシアチブは、30,000人を超える縫製労働者のエンパワメントを達成してきた。ケアは「工場の女性」向けグローバル・カリキュラムを作成し、ライフスキル・トレーニングを広く一般に提供している。また中間管理職を対象にトレーニングを展開し、新人研修を終えたばかりの縫製労働者が実技練習できる場の確保を図っている。さらに工場の内外で女性の工場労働者を支える環境を目指して地域密着型のイベントを展開している。タフツ大学主導のもと「工場の女性」イニシアチブを分析した結果が間もなく発表されるが、初期データからはトレーニングのおかげでジェンダーに基づく暴力や職場での屈辱への泣き寝入りや鬱病が減少し、女児の健康が改善したことが読み取れる。経営側からも遅刻や離職率の減少、生産目標の達成率アップなどビジネス面での改善も報告されている。

  1. 透明な報告でサプライチェーンにある女性の認知度を高めるサプライチェーンでの女性の立場・役割や直面する課題が水面下にあるケースが多い。特に内職者を含むインフォーマルセクターで働く女性労働者の現状は闇の中なのだ。女性の役割と問題点を可視化し、認知度を高めるには、透明性を確保し、サプライチェーンに関する報告の公表が有効である。GAPやC&A、M&Sを含む100社を超えるアパレルブランドは現在サプライチェーンの詳細を公表し、衣料品業界が透明性向上に乗り出す大きな前進を示している。

    公的報告書に戦略的目標や実績を盛り込むことで、成功事例から学び、共有することも可能となる。ウォールマートはグローバル女性経済エンパワメント(WEE)という5ヵ年のイニシアチブを立ち上げ、ソーシングやトレーニング、多様性と包摂性の支援を通して世界中で女性のエンパワメントの促進を目指している。このグローバルWEEイニシアチブには定量化可能な目標値を設定し、達成度の実績を公表している。詳細についてはこちらからhere

  2. CSRアジアサミットでの討議に参加をCSRアジアサミット2017(CSR Asia Summit)ではサプライチェーンでのジェンダー平等と女性の権利について討議を行う。ケアと連携し、GAPやGSK、ウォールマートなどの企業を招き、女性従業員の権利擁護についての取組みを共有していく。詳細についてはこちらからhere。セッションの中でケアは「Made by Women」というアジア地域向け戦略を発表する。これはさまざまな取組みをスケールアップすることで、2021年までにアジアのアパレル業界で働く800万人の女性のジェンダー平等および尊厳ある労働環境の促進を目指している。詳細についてはクレイリア・ダニエルまでcdaniel@csr-asia.com

写真クレジット: Gap Inc.

執筆:クレイリア・ダニエル