SDG報告に乗り出した大中華圏の企業




国連の持続可能な開発目標(SDGs)は9月に採択から2周年を迎える。新たに発行された2016年版サステナビリティ報告書を考察し、採択の翌年に大中華圏の企業がいかなる対応を取ったかを把握する絶好のタイミングである。

GRIと国連グローバル・コンパクト、WBCSDが策定したSDGコンパス(The SDG Compass)は、企業がSDGsに取り組む際の指針であり、企業戦略とSDGsを整合させるための5段階のアプローチを示している。企業に対して以下の点に考慮するよう呼びかけている。

  • 企業のバリューチェーン全体を通して、SDGsに関する現在および将来的なプラスとマイナスの影響を評価することで、企業はプラス面を強化し、マイナス面を軽減もしくは予防することができる。
  • ステークホルダーの期待や事業との関連性などをもとに、企業にとり大きなビジネスチャンスやリスクとなる重要課題を見極め、優先的に取り組むSDGsを決定する。
  • 測定可能で期限付きの具体的な目標を設定し、企業がいかにSDGsにプラスの貢献を図っていくか、さらにマイナスの影響を軽減するかを説明する。

中国と香港の上場企業トップ50社の中で、2016年のサステナビリティ報告書にSDGへのコミットメントを明記しているのは約五分の一に留まった。台湾では、上場企業トップ50社の半数以上が表明している。SDGとの整合性に向けた戦略的アプローチを開示した情報には、以下の通りばらつきが見られる。

  • SDGへのコミットメントを表明した企業の多くは、SDGsに照らして事業内容やサステナビリティ戦略をマッピングし、関連性の高い課題を特定したと述べている。大多数の企業は、プラスの貢献ができる最大のチャンスに照準を当てて特定を行った。
  • SDGへのコミットメントを明確な活動やプログラムに移す際、SDGsが掲げるグローバル課題とうまく関連づけられていない企業も複数見られた。例えば、日常業務の中でエネルギー効率の向上や二酸化炭素排出量の削減を図る現行の取組みを「開発目標13:気候変動対策」への貢献として説明している。企業全体として低炭素エネルギーを活用する戦略をたてることなく、再生可能エネルギーの活用が特定の事業に限定されているのだ。この他にも社員が個人的に行うボランティア活動や寄付、さらには社員向け健康管理サービスを「開発目標1:貧困の削減」や「開発目標3:健康と福祉」への貢献策として位置づけている企業もある。このような断片的な取組みが、企業全体としてのサステナビリティを向上させる戦略の中でどう作用しているのか、また事業領域を超えて開発課題をどう解決していくのか明確でない。
  • SDGへのコミットメントを明記しつつも、事業がSDGsに及ぼすマイナスの影響についてオープンな考察とコミットメントを期限付きの測定可能な目標に反映させる説明が欠落しているサステナビリティ報告書が大多数であった。

大中華圏で事業を展開している企業の中には、優先的な事業活動とSDGsとの足並みを揃えることで、スケールアップ可能かつ影響の大きいSDGsへの貢献を戦略的に図っているものもある。

  • 台湾集積回路製造(TSMC)社は、最も関連のある開発目標を特定するべく、SDGsに照らして同社のサステナビリティ戦略ビジョン2020をマッピングしたと2016年版サステナビリティ報告書で説明している。優先度の高い開発目標に貢献する事業活動について記述し、期限付きの測定可能な目標も一部盛り込まれている。例えば「開発目標12:責任ある生産消費形態」への貢献策として、2020年までに廃棄物リサイクル率を95%以上に引き上げ、埋め立て処理される廃棄物を1%以下に抑えることを目指している。
  • 遠東新世紀(FENC)社は製品および生産工程のイノベーションを通し、中核的能力を活用してSDGs達成への貢献を図っている。「開発目標6:安全な水と衛生」に貢献する取組みでは、ナイキと水を使わない染色技術を開発したオランダのダイ・コー社と協働し、水の消費量のみならず、化学添加物の排出量および石油エネルギーの使用量を大幅に削減するウォーターレス染色という新たな生産工程を実現した。「開発目標14:海洋・海洋資源の保全」でFENCは、パートナー団体と協働して海洋に投棄されたペットボトルを繊維として再利用するリサイクル糸を生産し、これまでアディダスの限定品ランニングシューズとジャージに使用されている。
  • 香港の電力会社CLPが打ち出したジェンダー多様性に向けた取組みでは、ビジネスニーズを反映し、SDGsとの整合性を図り、女性の社会・経済的エンパワメントに貢献する3つの優先分野を特定した。「開発目標5:ジェンダー平等」の達成に向け、女性管理職の増員と男女間の賃金格差解消、さらに女性エンジニアの雇用拡大を視野に女子学生が工学に興味をもつよう学校でのプログラムや女子学生の採用に力を入れている。

SDGsは2030年までの達成を目指しているが、企業はSDGsをフレームワークとして活用することで喫緊の社会・経済・環境的グルーバル課題の解決に向けて貢献策に弾みをつけ、測定することを期待されている。これまで通りに事業を続けていてはSDGsの達成は不可能であるとの認識が広く共有されている。SDGsを達成するには、企業は単発の取組みを個別に進めるのではなく、オックスファムが提唱するように「事業活動とSDGsがぶつかり合う主な問題点を洗い出し、整合性を図っていく(identify key areas of tension between commercial practices and the SDGs, and work to find ways to realign them)」必要があるのだ。

企業はサステナビリティ戦略とSDGsの統合に乗り出したばかりであり、大中華圏におけるSDGへのより深いコミットメントが目に見える形をとるにはまだ時間がかかるだろう。事業内容が足枷となりSDGとのすり合わせで直面するさまざまな課題をオープンしている企業はほとんどないが、SDGsの達成に向けて必要とされる変革に企業が真摯に向き合っていることを表す前向きな兆しではある。

  • 台湾の大手IT機器メーカーであるASUS社は2016年版サステナビリティ報告書の中で、次々に投入される新しい家電製品と頻繁に製品を買い替えるサイクルにより、人の健康と環境を脅かす膨大な量の家電廃棄物が生じている点を指摘している。同社は循環型社会の達成に向けてライフサイクル型アプローチをとっている。有害物質に替わる代替物質や改修による製品寿命の延長、ユーザーが簡単に修理やアップグレードできる製品デザインへの改善、さらにリサイクルサービスの提供などが含まれる。
  • CLPはインド、香港、中国本土で多数の契約労働者を雇用しているが、契約条件や労働環境についての彼らの理解が限られたものだと認めている。契約労働者の人権侵害リスクを軽減すべく、CLPはデンマーク人権研究所と協働し、初の人権デューデリジェンスに乗り出した。

今年も残すところ4カ月となり、企業は2017年版サステナビリティ報告書の策定に取りかかる時期が近づいているが、企業はビジネス戦略とSDGsの統合に向けた指針として、業界別ガイド(sector guides)やビジネス指標(business indicators)などさまざまなリソースやツールを活用することができる。より多くの企業がSDGの複雑なインパクトを検証し、2030年に向け開発分野のグローバルな優先事項と足並みを揃える事業発展を目指して大胆な取組みを進めることにつながるはずだ。

大中華圏でのSDGコミットメントの詳細については、近日中に発行されるレポートやオックスファム香港とのジョイントセミナーにご期待下さい。詳細についてはヘレン・ルースまでhelen.roeth@csr-asia.com

執筆:ヘレン・ルース