「食料市民権」の高まり




東南アジアは美食家にとって天国である。シンガポールでは食を追求して旅行したり、食材を探し回って顰蹙を買ったりする者がいるが、政府自らも世界中の有名シェフを招くイベントを次々と開催して、世界有数の観光地となるよう音頭を取っている。ASEANではグルメ市場が活況を呈し、2017年のアジアのトップ50レストランのうち20を占めている。

消費者はますます物知りになっているが、この破綻した食料システムの矛盾を意識し、理解することはできているだろうか。

食に対する見方にグルメ番組が与える影響

今の時代、私たちは食料を購入・調理・消費するだけではない。グルメ番組を視聴し、とっぴな料理を撮影してインスタグラムにアップし、レストランの口コミを検索したりメニューをオンラインで調べたりもする。食べ物は今や必需品にとどまらず、さまざまな意味でエンターテイメントとなっている。アメリカ人フード・ライターのマイケル・ポーラン氏によると、「現代は食べ物を週末の楽しみに変えてしまいました。おしゃれなキッチンブランドのウィリアムズ・ソノマのエプロンを身につけて裏庭でバーベキューしたり、ソファーに寝そべって料理番組を見たり、気晴らしをしているのです。」

自ら調理する替わりにソファーに寝転んでテレビの料理番組を見るようになった今、食べ物や料理番組がこれほどまで人気を集めている要因は何なのか。

何十年にもわたりグルメ系番組はテレビ放映されてきたが、その内容は料理番組からシフトし、食べ物を喜びの源や健康、ダイエット、旅行・冒険、さらにはかけがえのない人生の瞬間という切り口で捉える傾向にある。台所での調理時間が減る代わりにソファーでテレビを見る時間が増えているが、スローフードを含めて食生活を改善し、栄養成分表示ラベルにもっと関心を持つよう促されている。

マイケル・ポーラン氏はグルメ系番組の魅力を次のように分析している。「テレビ番組の中のシェフは、野菜や肉、キノコ類など正真正銘の実物を扱っているのです。キーボードやモニター画面相手ではなくね。火や氷を魔法のように使って、匠の技を披露しています・・・」

料理が人間を人間たらしめ、食料を通してわれわれ人間が自然との深いつながりを意識するとしたら、食料や栄養の啓発においてテレビは重要な役割を担うべきである。健康的な食習慣を浸透させ、食料への理解を深め、私たちが選ぶ食べ物が環境・社会・健康にどう影響するかについて伝えていく力を持っているからだ。

食べ物に対する関心が高まるにつれ、食料生産を担う人々についてのドキュメンタリー番組も増えている。複雑な食料システムをシンプルかつ視覚的な方法で映し出すこれらの番組は、視聴者がシステムの矛盾や食料サプライチェーンの課題を理解することを助け、行動に移すよう働きかけている。

食料システムの何が破綻しているのか

現在の食料システムを変革する動きが至るところで起きている。人々は力を合わせて食料の生産・消費・購入方法を変えようしているが、そもそも何を変える必要があるのだろうか。

一言で言えば「2050年までに90億人以上の食料を賄う必要がある」ということだ。人口の増加と資源の減少により、地球の食料システムは入り組んだ深刻な問題を数多く抱え、解決が急がれている。以下の表が示すように、これらの問題は絡み合い「複合問題」となっている。

世界資源研究所(WRI)は「持続可能な食料の未来を構築する(Creating a Sustainable Food Future)」と題する画期的な研究レポートを発行し、既存の問題を徹底分析した上で「食料ギャップ」を埋めるための解決策を提案している。

CSRアジア(CSR Asia research)が支援する調査研究であるオックスファムのGRAISEAプロジェクトは、食料および農業セクターの変革を図っている。東南アジアでのジェンダー変革と責任ある農業関連ビジネスへの投資促進により小規模生産者の生活向上を図る取組みである。

しかしながら消費者は専門的なレポートを読まなくても、多くの問題を知ることができる。この10年間、多くの著名人がよりサステナブルな食料システムを求めて声を上げている。オックスファム・インターナショナルの親善大使を務めているイギリスのロックバンドのコールドプレイは、ツアー中にGROWおよびフェアトレードのキャンペーンを展開している。またセレブシェフも加わり、英国ではジェイミー・オリヴァ―が子どもの栄養を改善し肥満に対してセクター横断的な戦略を立てるよう政府へのロビー活動を続けている。

複数の独立機関も、変革が起こりつつあるのか把握するために消費者への影響を分析し始めている。

食料は消費の対象から市民権へとシフトしたのか

2016年3月にジョンズ・ホプキンス大学のリバブル・フューチャー・センターが発表した初の世論調査の結果は、アメリカで調査に参加した人々が食料のサステナビリティについて懸念を抱いている点を指摘している。

  • 回答者の92%は持続可能な方法で食料を生産することが最優先だとした。
  • 回答者の74%は栄養ガイドラインにサステナビリティ政策を盛り込むべきだとした。
  • 回答者の79%は政治家ではなく科学者が栄養ガイドラインを策定すべきだとした。
  • 回答者の52%は栄養ガイドラインにサステナビリティを盛り込まない政治家には再び投票しないとした。

「何をどこで食べるかの判断がもたらす影響を理解した上で、投票行動に反映させる食料有権者の台頭を目の当たりにしている」と同センターは結論づけた。食料システムの問題について世論の意識が高まると同時に、自らの判断が広範囲に及ぼす影響についても理解しているのだ。

欧米で食料市民権の概念が浸透する中、似たような動きはアジアで起きているのだろうか。同様の研究はこれまで行われていないが、アジアの大多数の消費者が何を期待しているかについて変化が起きていることを反映する数々の消費者動向をつかんでいる。

世界的な市場調査機関のミンテルは今年初めに報告書「飲食物の世界的傾向2017(Global Food and Drink Trends 2017)」を発行し、東南アジアでの消費者の優先課題がいかに変容しているかについて考察している。

同報告書は第一の傾向として伝統を挙げている。「消費者は伝統的でレトロな商品を求めている。過去との繋がりがはっきりしている伝統的商品は、信頼性という強みが生きるのだ。」

次に「自然でシンプル、柔軟性のある食生活」を好む点が第ニの傾向であり、ベジタリアンや、ビ―ガン(完全ベジタリアン)、その他の野菜ベースの食生活の広がりを加速させている。

ミンテルの報告書はさらに第三の傾向として「時間が重要な要素」だと指摘している。商品や食事に時間をかけることが、栄養や食材と同等の訴求力を持ち、「多くの消費者はバランスを求めており、スローを売りにする商品を好んでいる」とした。

最後に健康的商品を好む「全ての人に健康を」という第4の傾向を挙げている。アジアで肥満が急速に広がる中、健康志向が顕著な広がりを見せている。ASEAN主要6ヵ国では4年間に肥満率が平均28%上昇し、年間100億米ドルのコストがかさんでいる。

中国では中間層の拡大と可処分所得の増大、生活の質の向上に伴い、より健康でバランスの取れたライフスタイルを心がける人が増えている。中国に限らず、ここ数年の食べ物を巡る一連の不祥事により、消費者は食材や生産過程の安全性に非常に神経を尖らせている。新鮮で健康的な食材の重要性を強調するテレビ番組の影響で、欧米での消費者意識の変化に似た動きがアジア諸国でも起こっている。

ミンテルの報告書を基に、世界各地での傾向に匹敵する動きがアジアでも起こると予想されるが、その規模と政治的影響は大きく異なると思われる。

「市民権の時代」への移行に向け食品会社が果たしうる役割とは

今年の6月、英国の食料倫理協議会は「食料市民権」と題する報告書を発行した。食品業界の6社と協働し、将来の食料「市民権」システムを10カ月に及び調査したものである。

調査目的は「食品セクターの主要アクターが一丸となり、消費者マインドから市民マインドに切り替えた場合に何が起こるかを検証する」ことであった。

市民マインドとは「人々を市民と捉えることが最善の理解につながるという信念に根差した考え方である。有意義なチャンスを与えられると、われわれは選択肢を作り出す意欲が高まり(選択肢の枠の中のみから選ぶのではなく)、すべての人々にとり最善の結果を探求する(狭い利己心にのみとわれるのではなく)のだ。」

消費者マインドにおいては、生産者と大衆が切り離されている。しかし人々を市民として捉えると、生産者は大衆を単に購買者と見るのではなく、購買行動を理解する上での有効な手助けと考えられるのだ。

同報告書は企業のみならずNGOや政府にとり、食料市民とより上手く関わっていく重要なヒントを与えている。食料のサステナビリティについての複合的な問題に対処するには、食料サプライチェーンのあらゆるレベルでの緊密な協働が不可欠である。

人々は消費者や市民として、あらゆる新たな方法で食料システムに参画し、現行のシステムに変革をもたらす推進力となることが予想される。一個人としての消費者の枠を超えて、団結して行動を起こす意志のある人々が増え続けているのだ。

画像イメージ: http://www.foodethicscouncil.org/

1. The World Resources Institute. Creating a Sustainable Future: http://www.wri.org/sites/default/files/wri13_report_4c_wrr_online.pdf

2. Oxfam GRAISEA CSR Asia research: http://www.csr-asia.com/report/Agribusiness-and-the-SDGs.pdf

3. Mintel. Global Food and Drinks Trends 2017: http://www.mintel.com/global-food-and-drink-trends

4. The Food Ethics Council. Food Citizenship Report: www.foodethicscouncil.org/uploads/publications/FoodCitizenship2017_web.pdf

執筆:イザベル・モリン