肝炎の意識啓発に向けた企業の取組み




慢性肝炎の感染者数が現在HIV感染者数を上回っていることをご存知だろうか。世界の慢性肝炎感染者数は、B型とC型を合わせると2億5,700万人に上り、アジア太平洋地域の感染者が大多数を占めている。1 最大の患者数を抱える中国では、9,300万人がB型慢性肝炎を、さらに4,400万人がC型慢性肝炎を罹患していると推定され、毎年30万人以上がB型肝炎と合併症により命を落としている。

肝炎ワクチン接種で予防可能なB型肝炎に対し、中国政府は予防接種キャンペーンを展開し、感染を抑える有効策となっている。しかしながら、出産適齢期の女性を含む20歳以上の中国人の約10%がB型肝炎に罹患している。2

香港中文大学(CUHK)のグローバル・ヘルスセンターが肝炎の政策について発行した最新の報告書によると、アジア太平洋地域の保健医療体制は、残念ながら公衆衛生への脅威となる肝炎を撲滅するには到底及ばないレベルである。

アジア太平洋ウィルス性肝炎撲滅連合(CEVHAP)支援のもと作成された同報告書は、2016年にアジア地域13ヵ国からの専門家と共に、肝炎に関する国家プログラムの最新状況について調査した結果を網羅している。対象となったのはオーストラリアとバングラデシュ、中国、香港、インドネシア、日本、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、台湾、タイ、ベトナムの国家プログラムおよび政策決定プロセスである。2012年以降、同地域の政策について初めて調査を行い、国家計画の策定状況や診断・治療・ケアのための資金状況、差別からの保護など、世界保健機関(WHO)が肝炎の予防および対策の際に必要だと勧告している様々な課題を検証している。

同調査は、WHOが2030年までに公衆衛生上の脅威となるウィルス性肝炎の撲滅を目指すとした世界戦略に沿ったものである。ウィルス性肝炎に関する保健分野における初の世界戦略であり、持続可能な開発のためのアジェンダ2030の達成に貢献するものである。(WHOの世界戦略(英文)はこちらにアクセスthe first global health sector strategy

同報告書の主な調査結果は以下の通りである。

  • オーストラリアと中国、日本、台湾では包括的な肝炎政策の策定および遂行に大きな前進が見られた。
  • 国家および地域規模での肝炎政策の必要性について各国政府は認識し始めているが、実施に向けての予算配分は進んでいない。
  • 大多数の政府は慢性肝炎の治療および対策を専門家任せにし、感染を封じ込める上でプライマリケアが要となる点を見落としている。

中国では多くの場合、肝炎感染者の検査と診断、告知を行うのは教育関係者や職場、両親と多岐にわたっているが、経験と専門性により診断プロセスの内容にばらつきが見られる。健康に関するトレーニングを受けない状態で検査を行う場合も多く、肝炎感染者の人生を一転させるような情報の扱いにも不適任である。3診断のプロセスやウィルス性肝炎の感染についての告知方法は、感染者が症状を理解し、対処する上で非常に重要である。事業主が従業員の診断を告知することは言語道断である。なぜなら従業員に適切なケアを紹介する知識を持ち合わせず、個人情報を守り、職場での差別を防ぐ仕組みも整備されていないためだ。

職場でのスクリーニングの問題点として同報告書は以下の点を挙げている。4

  • 臨床ケアについての助言を欠いた診断:中国では多くの人が学校や職場での健康診断を通して肝炎と診断されている。健康診断について国の指針もトレーニングも整わない中、学校や事業主は、ウィルス性肝炎の感染経路や病状のコントロールなど、感染に付随する弊害を軽減する有効策を感染者に伝える知識を持っていない。
  • プライバシー保護の欠落:肝炎感染者のプライバシー保護に関して、学校や事業主は医療従事者と同等の責任を負う訳ではない。ウィルス性肝炎検査で陽性と診断された場合でも、感染者は検査結果の秘密を選択することができないことが多い。日常生活の中で肝炎に感染する、と広く誤解しているため、陽性反応が出た人々が同級生や教師、同僚、上司、さらには親族からも除け者扱いされてしまうケースが頻発している。
  • 心理的影響:ウィルス性肝炎について正確な情報が欠落しているために影響を受けることが多い。メディアやインターネットには偽造薬品の広告が溢れかえり、病院では過剰な処置が繰り返し行われている。さらに一般の人々の間に感染経路について広がるデマにより、感染者の自己肯定感に大きな影響を及ぼしている。
  • レッテル貼りと差別:中国政府は労働社会保障局および保健省と共に、差別の撤廃に向けて2007年に規定を打ち出し、事業主に対してB型肝炎を理由に不採用や契約の打ち切りを禁じている。雇用の権利とB型肝炎感染者のプライバシーが法律により保障されているにも関わらず、肝炎に対するレッテル貼りが横行している。

調査に参加した複数の人々から、ウィルス性肝炎への感染により雇用が打ち切られたり5 、感染源になるとの汚名を着せられて不当に解雇されたりしたとの声があがった。B型肝炎とC型肝炎は日常生活では感染することがないため、感染者へのレッテル貼りや差別は的外れである。医療機関以外の組織が検査を行ったり、感染を理由に雇用を控えたりする道理はないのだ。

肝炎への意識啓発のために企業は何ができるか  ,

肝炎の感染者数がすでに多数に上ることから、アジア太平洋地域で増え続ける負担の軽減を図るには、肝炎に対する意識啓発や予防、診断、治療とケアを大幅に改善する必要がある。特に工場など、職場での不適切な扱いを見直すべきである。企業の人材・雇用方針が、意図せずとも、肝炎を含むあらゆる疾病を抱える従業員に悪影響を及ぼす可能性があることを、まずは事業主が理解しなければならない。

採用時に健康診断を行うか否かに関わらず、企業は以下の点に留意することで、アジア太平洋全域で慢性肝炎に対する意識を高めることができる。

  • 意識啓発:特に子どものいる親世代の従業員と1980年代後半のB型肝炎ワクチン導入以前に生まれた世代の肝炎についての意識啓発を図る。
  • 職場でのレッテル貼りと差別を特定し解決を図る:コミュニティに根強く残る差別を解決し、社会的に悪影響を被っている人々を支援する。
  • 職場での健康スクリーニング方針を変え、変更点を伝える:検査結果の匿名性を確保し、検査自体を専門の医療従事者が行うようにする。肝炎感染者の雇用が限定されるのは、特定の外科的処置などの極めて限られた状況においてのみである。
  • CEVHAPに連絡する:上記の取組みを進める際、CEVHAPの支援のもと、プログラム策定や職場での取組みを協働して行うことができる。

CEVHAPについて

アジア太平洋ウィルス性肝炎撲滅連合(CEVHAP)は、ウィルス性肝炎の負担を軽減するよう公共政策の変革を働きかけ、最終的に同地域での肝炎の撲滅を図る、独立した分野横断的な地域内初の組織である。

2010年10月に法人化され、メンバーには世界的に著名な肝炎の専門家や感染者が名を連ねている。公共政策立案や健康教育を担う政府組織など幅広いステークホルダーとパートナーを組み、会員の専門性を駆使して地域に支援を行っている。最近ではウィルス性肝炎に関するWHOの保健分野における世界戦略や、西太平洋地域の行動計画の策定に貢献した。詳細についてはCEVHAPのホームページwww.cevhap.orgから、または次のサイトにアクセス下さい:FacebookTwitterLinkedIn , Weibo

当記事は、CEVHAP事務局長のジェニファー・ジョンソン氏、フライシュマン・ヒラードのベニー・ウォン氏、CEVHAP執行委員のジャック・ウォレス氏との共同執筆によるものである。

画像: CDC.gov

1. World Health Organization. Draft Global Health Sector Strategy on Viral Hepatitis 2016-2021. 2015.

2. Wallace, J., et all. Australian Research Centre in Sex, Health and Society, La Trobe University. Needs Assesment of Viral Hepatitis – China. 2015.

3. Wallace, J., et all. Australian Research Centre in Sex, Health and Society, La Trobe University. Needs Assesment of Viral Hepatitis – China. 2015.

4. CEVHAP. Living with Chronic Hepatitis in China: A Qualitative Assessment. 2017

5. Wallace, J., et all. Australian Research Centre in Sex, Health and Society, La Trobe University. Needs Assesment of Viral Hepatitis – China. 2015.

執筆:レベッカ・ウォーカー・チャン