ビッグデータはサステナビリティに有益か




ますます巨大化するビッグデータ

私たちは加速化するデータ主導の世界を生きている。想像を絶する量のデータが世界規模で作成・蓄積され、増加の一途をたどっている。創造的破壊をもたらす技術が2017年に起こしうるシナリオについて、専門家による見解は様々であるが、ビッグデータはますます高度化しダイナミックになっていく、という点では一致している。

ここで重要なのはデータの量ではない。企業がいかにデータを活用するかが肝心である。ビッグデータの性能が上がるにつれ、企業はリアルタイムの情報を入手し貴重な洞察に活かすことで、情報に基づく決断が可能となり、コストの削減や、新製品・サービスの提供へと道が拓かれるのだ。

さまざまなツールのアクセス効率が向上し、ますます洗練されて性能が上がる中、ビッグデータはサステナビリティにどのような意味を持つのか。ビッグデータを活用することでサステナビリティの管理が向上し、より大きなインパクトを期待できるのか。

当記事では、ビッグデータと新たなデータ管理システムがサステナビリティに大きな変化をもたらした2例を示している。アジアに展開する他の企業が同様の取組みを検討する際のモデルとなるだろう。

東南アジア都市部の交通の課題解決を図るGrab社

東南アジアを代表する配車予約サービスを展開するGrab社は、世界銀行と協働し、同社のGPSデータストリームに基づく交通データプラットフォームを提供する「オープントラフィック」イニシアチブを立ち上げた。

政府向けに無料で「オープントラフィック」を提供し、特に運輸当局に対して走行速度や交通の流れ、ラッシュ時のパターン、移動時間などの情報を提供し、信号機管理の最適化や、ラッシュ時の渋滞緩和に向けた取組みを支援している。政府は「オープントラフィック」を活用することで、都市の密集地での交通量管理を改善するにとどまらず、二酸化炭素排出量を削減し、通勤時間の短縮を図ることも可能となる。

世銀はフィリピンで「オープントラフィック」データを交通事故報告書と統合し、緊急事態発生時の交通管理などの改善を目指している。

ブロックチェーン技術を活用し、サプライチェーンのトレーサビリティ向上を図るProvenance社

ビットコインの技術基盤として2010年に考案されたブロックチェーンは、銀行など特定の主体が集中管理することなく、デジタル決済や通貨システムを可能とした。デジタル通貨は注目の的となったが、ブロックチェーンの方が最終的により大きな創造的破壊を起こしうるのだ。

ブロックチェーンとは、デジタル帳簿の作成と、コンピューターネットワークを通して帳簿の共有を可能とするデータ構造である。複雑な暗号化により、ネットワーク参加者は、中央機関を通さずに安全な方法で帳簿を書き換えることができる。ブロックチェーン技術の進んだ適用として、金融サービス業以外ではサプライチェーンの管理が主要なターゲットとなっている。

企業収益のうち何十億ドルをも占めるサプライチェーン業は、リスクや不正、時代錯誤の手作業による事務処理の遅れにより損害を被り非効率なものとなっている。ブロックチェーンはグローバル・サプライチェーンを塗り替え、従来の製品製造や取引、購入方法に創造的破壊をもたらす可能性がある。

ロンドンを拠点とする技術系新興企業であるProvenance社は、サプライチェーンの信頼性を高めることを目指し、サステナビリティ認証済みの漁師が捕獲したマグロを追跡するパイロットプロジェクトをインドネシアで展開した。

トレーサビリティの要求が高まっている水産物業界

水産物業界のビジネス手法の中には、環境や野生生物、人々の健全な生活を脅かすものがある。消費者や政府、NGO、企業から、水産物製品の原産地や社会的基準に関する情報を求める声が高まる中、マーケット・プレミアや優先的マーケット・アクセスは社会・環境的に責任あるビジネス手法には不可欠となっている。

トレーサビリティの課題

トレーサビリティの達成には、長いサプライチェーンのリンクを一つ一つ把握する必要がある。現行のシステムでは、サプライチェーンに沿っての効果的なデータの相互運用には大きな技術的課題が立ちはだかっている。ごく最近まで、データと取引の透明性を確保するには、第三者機関による集中管理が考え得る唯一の方法であった。一つの組織が、サプライチェーン全体を通してデータの透明性に責任を持つことは不可能である。NGOや業界団体では透明性の管理能力に欠け、仮に管理できたとしても賄賂や、ソーシャル・エンジニアリング、ハッキングの標的になる危険性があるのだ。

グローバルに包摂的な解決策となりうるブロックチェーン

漁師や工場、認証団体、消費者を含むあらゆるステークホルダーが、公明正大に同じ真実を共有できたとしたらどうだろう。ブロックチェーン技術はまさにこれを実現しうるのだ。Provenance社はインドネシアでのパイロットプロジェクトを通して、トレーサビリティを可能とする新たな方法を模索した。

漁師の生活を改善し、消費者行動に変化をもたらす新たなシステムに向けた技術的課題の克服

Provenance社のプロジェクトは、以下の3フェーズを主要ターゲットに、サプライチェーンのすべてのステークホルダーに変化をもたらすことを目指している。

フェーズ1:Provenance社は地域の漁師と協働し、漁獲量のデータ収集と、サプライヤーまでの追跡を支援した。

フェーズ2:Provenance社はブロックチェーン・システムと既存のサプライチェーン管理システムの収斂に着目した。

フェーズ3:Provenance社は原産地からの情報が、サプライチェーンの最終地点にある消費者に確実に届き、信頼される方法を模索し、信頼に向けたインタフェースを設計することで消費者行動の改善を図った。

CSRとイノベーション

製品・サービスやステークホルダー、システムに対して新たなアプローチを取ることで、企業の持続可能性が高まることは広く知られている。しかしサステナビリティそのものを追求することで、最終収益を上げるイノベーションをも促進することができるのだ。

漸進的イノベーションであろうと、創造的破壊をもたらすような急進的イノベーションであろうと、CSRはイノベーション・プロセスの中でより重要な役割を果たしうる。サステナブルなイノベーションに向け、企業は以下の点に留意すべきである。

  • 研究開発やイノベーション担当部署と継続的に協働を図る。
  • 企業のサステナビリティ課題に照らして現行の研究開発の取組みを把握し、潜在的な環境・社会的インパクトを測定する。
  • イノベーションの構想段階からCSRの機能を取り込み、ビジネス・チャンスを探りつつサステナビリティの成果に焦点を当てる。
  • サプライヤーやパートナーを含む広いステークホルダーとサステナビリティを向上させるイノベーションを共有し、付加価値を高める。

画像クレジット: LinkedIn

執筆:ジャスティン・テオ