気候変動:ビジネスの継続を脅かすのか




気候変動の影響を受けるのはシロクマだけではない。そのリスクを理解せず、対応策を怠った場合、社会は新たな課題を突きつけられることになる。ミュンヘン再保険(Munich Re)1によると、2016年の自然災害損失額は1,750億米ドルにのぼった。これは2012年(1,800億米ドル)に匹敵する高さであり、うち付保されていた割合は30%(500億米ドル)にとどまった。北米では、記録をつけ始めた1980年以来、最多となる160の損害事象が発生し、損害額は550億米ドル(世界全体の損害額の33%)、うち54%が付保されていた。米国は1980年以来、最多となる19の洪水に見舞われた。6月と7月に中国を襲った壊滅的な洪水による損害は総額200億米ドルにのぼり、2016年で2番目に大きな額となったが、付保されていたのはわずか2%であった。

これまでも異常気象により、巨額の損害と広範にわたる混乱に見舞われてきた。例えば2003年に猛威をふるった干ばつと熱波により、3万人以上(フランスでは1万5,000人)が若くして命を落とすことになった。さらに欧州全域での損害額は130億ユーロを越えた2。複数の国で公共の水道水が不足し、穀物と家畜へのダメージにより食料価格が上昇、さらに森林火災が発生した(ポルトガルでは森林面積の5.6%に匹敵する39万ヘクタールが焼失した)。河川の水で冷却していたフランスの原子炉は操業停止を余儀なくされ、ドイツでも2カ所の原子力発電所が停止した。

記録の中で熱帯低気圧による最大の損害をもたらしたのは2005年のハリケーン・カトリーナであるが、これに次ぐのが総額500億米ドルの損害を出した2012年のスーパーストーム・サンディである。サンディによる犠牲者は米国北東部とカリブ海諸島、カナダで147名、オバマ大統領は首都ワシントンと6州に非常事態を宣言し、6,700人の州兵が出動・参集された。原子炉3基も停止した。2012年10月30日時点、首都ワシントンと15州にわたる790万もの企業と世帯が停電し、13州では171の赤十字避難所に9,000人が身を寄せた。ニューヨーク証券取引所は2日にわたり取引停止に追い込まれ、1万5,000以上のフライトがキャンセルとなった。さらに通信施設の冠水により一帯の通信が途絶した。ニューヨーク市が被った損害は190億米ドル、ニュージャージー州でのビジネス損失は83億米ドルにのぼると推計される。サンディにより全半壊した家屋はニューヨークとニュージャージーで65万1,000軒にのぼった。ニューヨーク州都市交通局によると、インフラへのダメージと収益ダウン、操業コスト増により50億米ドルの損害を被った。2013年10月までに連邦緊急事態管理庁(FEMA)はニューヨーク市で物的損害を被った家族への支援に10億米ドル以上を承認し、ニュージャージーの被災者には56億米ドルへの支援を行った。

2012年~2015年の4年にわたる深刻な干ばつに見舞われたカリフォルニア州では、いまだに州の半分が干ばつを抜け出していない3。2015年には54万エーカーが作付け不可能となり、2016年には7万8,800エーカーであると推計される。直接的な経済損失として、2015年には18億米ドル、農業従事者およそ1万100人が失業すると推計され、2016年には5億5,000万米ドル、1,815人の失業が危ぶまれている。農業関連企業および世帯収入減により、全体的な経済的損失は2015年には同州全域で27億米ドルと2万1,000人の失業、さらに2016年には6億300万米ドルの損害と4,700人の失業にのぼると推計されている。地下水は持続不可能な方法で大規模に汲み上げられ、飲料水の水源を探すためにより深く井戸を掘り進める必要が生じ、さらに地盤沈下によりインフラに損害が生じている。水の利用規制による影響は農業にとどまらず、食品加工や半導体、エネルギー、観光・娯楽を含む他業界にわたっている。

世界12位の規模を誇った水産業者であるパシフィック・アンデス・グループは、2016年6月30日、米国破産法11条に基づきニューヨークで破産申請を行った。CEOのNg Puay Yee氏の裁判所への申立てによると、同社が流動性危機に陥った一因として、エルニーニョ現象によりカタクチイワシが激減したことを挙げている。野菜の50%と果物の90%を輸入に頼る英国では、2017年1月からズッキーニやホウレンソウ、レタス、キャベツの品薄状態と生産価格の上昇に直面している。これはイタリアでの寒波と30年ぶりの大雨と日照不足に見舞われているスペイン南東部ムルシア地方での洪水に起因している。

個別の異常気象事象の原因を気候変動と直結させることには無理があるが、今後その頻度と激しさが増していく可能性が高くなっている。異常気象以外にも、気候変動はビジネスに間接的影響を及ぼすだろう。

コミュニティが抱えるリスクは即ちビジネスリスクである。世界的なサプライチェーンを展開する企業は、気候変動のインパクトをいち早く実感することになる。なぜなら途上国にあるサプライヤーや顧客、従業員は極めて脆弱な立場にあり、適応能力も限られているためだ。企業は地域のリソース(原材料を含む)とサービス、インフラに依存しているが、これらは頻発する嵐や水不足、農業生産性の低下、健康障害などの気候変動リスクに晒されている。つまりコミュニティの安寧は企業と産業界に影響し、ひいては経済成長全般に密接にかかわっているのだ。

さらに法的な影響も免れないのだ。2015年11月以来、ニューヨーク州のエリック・シュナイダーマン司法長官とマサチューセッツ州のモーラ・ヒーリー司法長官はエクソン・モービルへの捜査を進めている。これは同社が1970年代以降、社内で行った化石燃料の燃焼と気候変動との関連についての調査を隠蔽し、投資家と消費者に対して詐欺行為を行った疑いを持たれているためである。2017年1月11日、マサチューセッツ州の判事はエクソンに対して1976年に遡る資料の提出を命じた。2016年9月にはアメリカ証券取引委員会も調査に乗り出し、気候変動と原油価格の急落が起きる中で、エクソン側はどのように資産評価を行っているかを調べている。さらにConservation Law Foundation はエクソン・モービルに対して訴訟を起こし4 、同社が気候リスクを認識しながら、異常気象と海面上昇によるマサチューセッツ州ミスティック川沿いのエバレット工場への危険を無視し、コミュニティを危険に晒した責任を追及している。

気候変動に関心を持ち、対応策を講じる企業は実際に増えている。2017年1月10日には、600を超える企業と投資家が署名した公開書簡が提出され、トランプ次期大統領と米議会、世界の指導者に対して気候変動への対策強化を求めている。署名企業としてアディダス、キャンベルスープ、イーベイ、ギャップ、インテル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、リーバイス、スターバックス、バージンなどが名を連ねている。

しかし多くの企業は、温室効果ガスの削減などを通して気候変動を減速させる「緩和策」に焦点を当てている。大多数の企業は、気候変動による直近および長期的かつ直接的・間接的な影響に対処する適応戦略を立てる必要がある。気候適応策はコスト増となるが、備えと強靭性を怠った場合のコストは比べものにならない規模となる。気候適応戦略を策定する際には、以下のステップが有効となる。

  • 問題点と目標を設定する。例えば施設の地理的位置や事業区分など、範囲と規模を決定する。
  • リスク許容範囲と意思決定基準を確立する。例えば資産の平均寿命などの時間枠を決定する。
  • ビジネスリスクにおける氣候の重要度を決定する。例えば施設にとり、洪水は大きな懸念材料であるか。
  • 起こりうる物理的な気候リスクを特定し評価する。例えば暴風雨の頻度と激しさが増す可能性。
  • 決定を誤った場合のコストを特定する。例えば施設が冠水した場合の損害の大きさとは。
  • より包括的なリスク評価の必要性を特定する。誤った決定によるコストが大きい場合、より詳細な可能性評価や第三者意見の必要性を担保するのか。
  • 様々な適応策の選択肢を特定する。例えば洪水リスクを受け入れ損失を負担する、洪水防止策を強化する、移転する

1. Munich Re 2016 Natural Catastrophe Losses: https://www.munichre.com/us/property-casualty/press-news/press-releases/PressRelease-2017/natcat-2017/index.html
2. UNEP Environment Alert Bulletin: http://www.unisdr.org/files/1145_ewheatwave.en.pdf
3. Josué MedellínAzuara, Duncan MacEwan, Richard E. Howitt, Daniel A. Sumner, and Jay R. Lund (2016), Economic Analysis of the 2016 California Drought on Agriculture, A report for the California Department of Food and Agriculture, with research support from Jennifer Scheer, Robert Gailey, Quinn Hart, Nadya D. Alexander, Brad Arnold, Angela Kwon, Andrew Bell and William Li, Center for Watershed Sciences, University of California – Davis, August 11, 2016.
4. Conservation Law Foundation legal action: http://www.clf.org/wp-content/uploads/2016/09/CLF-v.-ExxonMobil-Complaint.pdf
5. Open Letter: http://www.lowcarbonusa.org/

執筆:リタ・ユー