貧困撲滅におけるインクルーシブ・ビジネスの役割




経済成長により、香港やシンガポールという都市は巨万の富を築いた。中国は貧困国から中所得国へと足場を固めるなど、アジアでは多くの国が経済的苦難から脱した。ミレニアム開発目標の達成状況に関する報告書によると、アジア太平洋地域において1日1.25ドル未満で生活する人口の割合は1990年の53%から2015年末までに12%へ減少すると予測されている。しかしまだ道のりは遠い。貧困ラインを一日2ドルと設定した場合、憂慮すべき実態が浮かび上がる。一日1.25ドル~2ドルの間で生活している人数は、1990年の7億6400万人から2015年には8億7200万人へと増加しているのだ。アジア太平洋地域には依然として世界の最貧層の60%、さらに世界の飢餓人口の3分の2が居住している。

企業は貧困撲滅に向けて重要な役割を担っている。革新的なビジネスモデルの創出が貧困削減への解決となるからである。その際、インクルーシブ・ビジネスは有力なモデルとなる。開発と貧困撲滅に資するのみならず、企業の競争力と成功にもつながるためだ。企業が雇用と富を創出する中、インクルーシブ・ビジネスは商業的に成り立つ方法でバリューチェーンに貧困層を巻き込むことを目指している。「インクルーシブ・ビジネス」とは一般的に、フィランソロピーより踏み込んでバリューチェーンに貧困層を巻き込む取り組みを進めている企業を指す。商業的な方法により、需要側ではクライアント・顧客として、さらに供給側では従業員・サプライヤー・流通業者として参画するのである。

インクルーシブ・ビジネスの様々なアプローチ

参画の手段

インクルーシブ・ビジネスの役割

需要サイド

製品・サービス

設計段階から低所得層の消費能力とニーズを考慮した上で、基本的な製品・サービスを提供する。

供給サイド

雇用

低所得層の所得創出のため適正賃金の雇用を創出し、搾取や失業を防ぐ。

サプライチェーン

地域や小規模サプライヤーとの協働を図り、小規模農家を支援することで能力向上や製品の品質向上を目指す。

流通

流通網に貧困層を組み込む。


企業の競争力を高めつつ、コミュニティの経済・環境・社会的な状況を改善させるインクルーシブ・ビジネス・モデルによりバリューチェーンに貧困層を統合させる企業が増えている。

ユニリーバは、大規模な事業形態を活用し、バリューチェーン内にある数百万の人びとを巻き込むインクルーシブ・ビジネス・モデルを展開している一例である。この中にはノウハウや市場へのアクセスのない小規模農家、ユニリーバ製品の販売により起業もしくは事業拡大し、生計を立てることができる小規模小売業者や研修・育成が必要な若手の起業家などが含まれる。小規模農家の所在地を把握することで、150万の農家から原材料を調達し、その収入によりコミュニティにある700万人の生活を支えていることが判明した(mapped where their smallholder farmers are located)。さらにこれらの農家のニーズを特定することで、適切な対応策を講じている。中国では1,500軒以上の小規模トマト農家と協働し、ユニリーバの「持続可能な農業規範」に則ったトレーニングを行い、1ヘクタール当たり6トンもの増産につながった。インドにあるサプライヤーの一つVarun Agroは、農家に対してマンゴーとトマトの間作を指導し、増産と収益増を図っている。ベトナムでは国際的な環境保護団体レインフォレスト・アライアンスの認証を得るべく、19,000軒以上の小規模茶農家を支援している。当プロジェクトでは女性のエンパワメントが中心的な取り組みであり、多くの女性農業者がスキルを高め、農村部でリーダーシップを発揮し始めている。

ネットワークスTMもインクルーシブ・ビジネスの一例である。世界的なカーペット会社であるインターフェイスのサプライチェーンに、フィリピンの漁村をナイロン製漁網のリサイクル調達先として巻き込んでいる(Net-WorksTM)。インターフェイス社のビジネス・ノウハウと、パートナーであるロンドン動物学会の環境保全と生態に関する専門知識を活用している。漁網を含む廃棄された漁具は、世界の海洋性廃棄物のうち約10%を占めている。ネットワークスのプロジェクトは、フィリピンの貧しい漁村に住む人びとに海に廃棄された漁網の回収を依頼することで新たな収入源を確保する一方、海洋性廃棄物が引き起こす環境問題の解決にもつながっている。回収された漁網はタイルカーペットに生まれ変わり、インターフェイス社が目指すリサイクル率100%の調達「ミッション・ゼロ」の達成にも寄与している。「インターフェイス社では、サステナビリティとは当社の製品による環境への影響を減らすことにとどまらず、より配慮の行き届いたインクルーシブな、そして最終的にはより大きな成功を収める新たなビジネスを展開することである」とインターフェイス・アジア太平洋のロブ・コームス社長は述べている。

タイではオニキス・ホスピタリティ・グループが「プラン・ビー」というプロジェクトで地元の蜂蜜生産者を支援し、適正な小売価格で蜂蜜を購入し、自社のレストランやスパで使用している。積極的な養蜂家10人が、蜂蜜の販売により全体で219,000バーツの副収入を得た。これは平均年収の28%増に匹敵する。当プロジェクトは参加している村民に蜂の生態および養蜂のトレーニングをし、スモーカーや巣箱などのスタートアップ・ツールを提供することでトウヨウミツバチを絶滅の脅威から保護することも目指している。

10月7-8日にクアラルンプールで開催されるCSRアジアサミット(CSR Asia Summit)の分科会(sessions)で、インクルーシブ・ビジネスの理論、さらに企業がバリューチェーンを使って貧困層の人びととコミュニティに機会を創出する実践方法を検証する。ロブ・コーム氏(インターフェイス・アジア太平洋 社長)とピーター・ヘンリー氏(オニキス・ホスピタリティ・グループ 社長)もパネリストとして登壇する。バリューチェーンに沿って実現可能なインクルーシブ・ビジネスについて議論し、成功事例と共に解決すべき障壁についても共有する予定である。

CSRアジアが近年出版した責任あるインクルーシブ・ビジネスに関するレポートは以下をご参照下さい。

 

画像クレジット:Unilever

執筆:マラ・チオリアン